獣医学部の5年生は動物関連の法律について学びます。
今回はポケモンの世界を、法律の観点から覗いてみたいと思います。
この記事はあくまでも、「軽い読み物」として楽しんでいただけたら幸いです。
僕は何も本気でポケモンの世界をディスっているわけではないということだけ、初めにお伝えしとておきます。
自分自身ポケモンにはよくお世話になりました!
野生のポケモンが現れた!
ポケモンをはじめるとまず最初に博士的な人からポケモンをもらいますよね。
冒険はそこから始まります。
その後、次の町へ向かいますが、草むらを通らなければいけません。
そこで野生のポケモンが現れ、戦闘が始まります。
みなさん序盤では手持ちのポケモンのレベルを上げるために多くの野生のポケモンを倒すと思います。
しかし、これは「鳥獣保護管理法」に違反します。
鳥獣保護管理法では以下のように定められています。
第八条 鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律
違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられるそうです。
「昨日の夜はレベル上げるために野生のポケモン100体ぐらい倒したぜ」とか言っているそこのあなた、今にも警察がチャイムを鳴らしに来るかもしれませんよ。
ちなみに「鳥獣」という言葉が出てきましたが、これはどのような意味なのでしょうか。
法律では以下のように定められています。
第二条 この法律において「鳥獣」とは、鳥類又は哺乳類に属する野生動物をいう。
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律
この文面の裏を返せば、”鳥類と哺乳類以外は鳥獣保護法の対象ではない”ということになります。
つまり、キャタピー(虫)、ヒトカゲ(爬虫類)、ニョロトノ(両生類)、テッポウウオ(魚類)などのポケモンは規制の対象から外れます。(ポケモンは全て殻があるタマゴを産むので哺乳類はいないのでは、、、?)
「じゃあ虫タイプのポケモンをたくさん倒すぞ!」ということであれば、法律上は何の問題もなさそうです。
しかし、法律で禁止されていなくてもやってはいいということではありません!
生き物の命は大切にしましょう。
野生のポケモンの捕獲
1匹のポケモンでストーリを進めるのは大変です。
タイプの相性もありますし、交代もしたいので2匹目のポケモンが欲しくなりますよね。
ポケモンの世界では野生の個体をモンスターボールで捕獲していますが、これは法律に違反していないのでしょうか?
一つ前の章で説明したように、現実の世界であったらこれは「鳥獣保護管理法」に違反しています。
しかし、これには例外規定があります。
- 学術研究の目的、鳥獣の保護又は管理の目的での捕獲(第9条)
- 狩猟期間での狩猟鳥獣の捕獲(第11条)
- 農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等又は採取等をすることがやむを得ない場合(第13条)
①の場合、これには都道府県知事の許可が必要です。
ポケモントレーナーのみなさん、ポケモンを捕まえる前に知事の許可を得ていますか?
②では狩猟鳥獣は以下のように定められています。
このリストを読んでみましょう。
えーっと、ポケモンの名前は一つも載っていないですね笑
③についても、ゲームを進行していく上で主人公が農業または林業に携わっている様子はないので、これも無しです。
つまり、ゲームでのポケモンの捕獲は全ての例外に当てはまらないので完全にアウトです。
既に説明したように、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。
しかし、よくよく調べてみると、ポケモンの世界にも捕獲に関する法律があることが分かりました。
それは「小卒大人法」(別名:10歳大人法)です。
この法律によると、義務教育は小学校までで、10歳から大人として扱われます。
また、10歳になったらポケモン捕獲の免許を取得できると定められています。つまり、ポケモンの捕獲には免許が必要らしいですね。
また、「ポケモン自然保護法」ではポケモンの乱獲を防ぐために、モンスターボールが6つまでしか所持できないと定められています。
ポケモンの世界にも、捕獲に関するルールが決まっているみたいで、少し安心しました。
これらの裏設定は、「ポケットモンスター The Animation」という、ポケモンの小説に書かれているそうです。
トレーナーとの戦い
今までは野生のポケモンを対象として話してきました。
ここからは、トレーナーが所有しているポケモンについてです。
次の町に向かうときに戦うのは野生のポケモンだけではありません。
目線が合うとトレーナーが勝負を仕掛けてきます。
トレーナーとの勝負はどちらか一方の手持ちのポケモンがすべて戦闘不能になるまで行われます。
動物同士をひん死になるまで戦わせることは、法律的に大丈夫なのでしょうか?
これは「動物愛護管理法」に違反している可能性があります。
動物愛護管理法では以下のように定められています。
第二条 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。
動物の愛護及び管理に関する法律
ポケモンバトルは人間の勝手な都合で行われているので、これによりポケモンが傷ついた場合は「みだりに傷つけた」と判断されると思います。
これには以下のような罰則規定があります。
第四十四条 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
動物の愛護及び管理に関する法律
ゲームが始まってしばらくすると、トレーナーとの最初のバトルがありますが、本来だったらストーリを進めることはできず、バトルをしてしまった時点でこのような罰則を受けます。
いつまで経っても次の町に進めないですね笑
第四十四条で「愛護動物」が出てきましたが、これはどのような動物なのでしょうか?
第四十四条のつづきには以下のようにあります。
第四十四条 4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
一 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
二 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
動物の愛護及び管理に関する法律
ここで注意していただきたいのが、2つ目の項目です。
人が所有していれば、哺乳類、鳥類、爬虫類であればどんな種類の動物でも愛護動物になるのです。
つまり、先ほどはヒトカゲなどの爬虫類と思われる動物は捕獲や戦うことができましたが、トレーナー同士で戦闘させることはできません。
逆に、魚のポケモンや虫タイプのポケモンであれば、「動物愛護管理法」に違反していないので、ポケモンバトルに使用しても問題はなさそうです。
僕も小学生の時はよくカブトムシ同士を戦わせてましたが、法的にセーフみたいで安心しました。
また、トレーナーとのバトルの後はお金のやり取りがあります。これが”賭け”の場合は、刑法の賭博罪にも抵触していますね。
「闘犬や闘牛はどうなの?」という声が聞こえてきそうです。
東京都、北海道、神奈川県、石川県、福井県では「闘犬、闘鶏、闘牛等取締条例」が定められていて、これらの行為が禁止されています(北海道では土佐犬のみ許可性)。
違反した場合は10万円以下の罰金、拘留、科料に処せられるそうです。
伝説のポケモンの捕獲
ストーリーの終盤では伝説のポケモンとの戦闘があります。
絶対に捕まえたいですよね。
いつも直前でレポートを書いて、間違えて倒してしまっても大丈夫なようにしていました。
伝説のポケモンを絶滅危惧種などの希少鳥獣ととらえた場合、この捕獲は様々な法律に違反している可能性があります。
- 鳥獣保護法
- 種の保存法
- 文化財保護法
鳥獣保護法については最初の章でお話しした通りです。
「種の保存法」、正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」は、国内に生息する希少な動植物の保護を目的に1992年に制定された法律です。
国内の希少種については環境省が作成する環境省レッドリストをもとに、外国産のものはワシントン条約をもとに対象となる動物が決められます。
この法律では以下のような罰則が定められています。
・法人が行った場合は1億円以下の罰金
しかし、環境省が指定している「国内希少野生動植物種」にポケモンは含まれていませんでしたので、トレーナーがこの法律による規制を受けることはなさそうです。
ロケット団、アクア団、マグマ団などの組織はうまく法の目をかいくぐっているようですね。
伝説のポケモンがリストに追加され、悪事が明るみになったら多額の罰金を払ってもらいましょう。
「文化財保護法」では、歴史的価値の高い絵画、彫像、演劇などに加えて、196種類の動物が天然記念物に、その内21種類の動物が特別天然記念物として指定されています。
カワウソは2012年に環境省が「絶滅種」に指定したのですが、天然記念物から除外はされなかったようです。
また、トキは韓国でも天然記念物に指定されています。
これらの動物を捕獲しようとするとどうなるのでしょうか?文化財保護法には以下のように定められています。
第百九十六条 史跡名勝天然記念物の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、毀損し、又は衰亡するに至らしめた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
文化財保護法
しかし、天然記念物の中にポケモンの名前はなかったので、この法律にも違反することはなさそうです。
とは言っても、いつ追加されてもおかしくないので、トレーナーの方たちは常にチェックしておく必要があるかと思います。
僕が文化庁の関係者だったら、まずはホウオウを特別天然記念物に指定したいですね。
以上で見てきたように、伝説のポケモンの捕獲に関しては鳥獣保護法しか規制できる法律がないことが分かりました。
希少種の保護のためにも、手厚い法整備を考える必要があると思います。
法的な罰則はないですが、トレーナーの皆さんには生物多様性を考えて、良識のある行動をとっていただきたいです。
ポケモンの交換
ストーリーが終わると、残るは図鑑の完成ですね。
僕も何回かポケモンをやったことがありますが、結局一度も完成できたことはありません。
なんてったって、交換が必要なので途中で諦めちゃうんですよね笑
僕が現役でポケモンをやっていた頃は友達同士でしか交換ができませんでしたが、最近はネット上でも交換ができ、外国の方としている人も大勢いると聞きました。
図鑑の完成を目指して、次から次へとポケモンを交換しているそこのトレーナーさん!
もしかしたら、「感染症法」に違反しているかもしれません。
感染症法、正式名称「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」はその名の通り、感染症を予防し、発生時の対処などについて定められて法律です。
この法律では危険度の高いものから、一類、二類、三類、四類感染症と定められており、医師や獣医師には届出の義務があります(※)。
ポケモンの交換に関して今回問題となるのは、「輸入禁止動物」の規定です。
感染症法では、日本に感染症を持ち込む恐れがある動物を指定し、すべての地域からの輸入を禁止しています。
第五十四条 何人も、感染症を人に感染させるおそれが高いものとして政令で定める動物(以下「指定動物」という。)であって次に掲げるものを輸入してはならない。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
輸入禁止動物には以下の7種類の動物が指定されています。
- イタチアナグマ
- タヌキ
- ハクビシン
- プレーリードッグ
- コウモリ
- サル
- ヤワゲネズミ
つまり、ズバットなどのコウモリのポケモンや、ヒコザルなどのサルのポケモンは原則輸入禁止です。
これらのポケモンを海外の人と交換している人は感染症法に違反していると言えるでしょう。
この場合、罰則は以下のように規定されています。
第七十七条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
八 第五十四条又は第五十五条第一項、第二項若しくは第四項の規定(略)に違反して指定動物を輸入したとき。
ポケモン図鑑を完成させる過程で、多額のお金が無くなりそうですね、、、
ちなみにサルに関しては、研究用・展示用であれば定められた国からの輸入が許可されています。
しかし、この場合は動物検疫所にて、エボラ出血熱とマールブルグ病の検査を受けなければなりません。
輸入禁止動物でないからと言って、何も検査を受けずに日本に入って来られるわけではありません。
感染症法のほかに以下の3つの法律によって、日本に輸入される動物の検疫が規定されています。
- 家畜伝染病予防法
- 狂犬病予防法
- 水産資源保護法
狂犬病予防法では、対象動物を輸入した場合は最長で180日間の係留検査を受けなければなりません。
係留期間を無視して、交換したばっかりのポケモンをバトルで使用することは国内において狂犬病を蔓延させることにもなりかねないので、注意してください。
これらについてさらに詳しく書くことはやめますが、ポケモントレーナーの皆さんは一度目を通しておき、交換したいと思っている動物が対象になっていないかを確認しておきましょう。
ちなみに、伝説のポケモンを交換した場合、そのポケモンが「ワシントン条約」の対象動物となっているとこれにも違反することになるので注意しましょう。
※獣医師の届出義務がある感染症は、エボラ出血熱、SARS、ペスト、マールブルグ病、細菌性赤痢、ウエストナイル熱、エキノコックス症、結核、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)、MERSの10種。
そのミルタンクで搾乳していませんか?
ポケモンの世界で畜産が行われている様子はあまり描かれていません。
しかし、「モーモーミルク」があることから、ミルタンクが搾乳されていることが伺えます。
ミルタンクが完全に搾乳用として飼養されているのであれば問題ありませんが、ポケモンバトルも行なっている場合、これは問題です。
キズぐすりやタウリンなどを使用し、同じミルタンクから搾乳するとこれは「薬機法」に違反している恐れがあります。
動物用医薬品には「使用禁止期間」が定められています。
これは畜産物を出荷予定の家畜に対して医薬品の使用が禁止された期間のことで、このおかげで肉や牛乳などの畜産物に薬品などが残留しないようになっています。
薬機法、正式名称「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」には以下のように書かれています。
第八十三条の四 農林水産大臣は、動物用医薬品又は動物用再生医療等製品であつて、適正に使用されるのでなければ対象動物の肉、乳その他の食用に供される生産物で人の健康を損なうおそれのあるものが生産されるおそれのあるものについて(中略)使用者が遵守すべき基準を定めることができる。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
この法律では、「使用禁止期間」については書かれていません。
薬機法に基づいて制定された農林水産省令で以下のように言及されています(「省令」とは各省の大臣が制定する命令のこと)。
第二条 法第八十三条の四第一項の使用者が遵守すべき基準は、次に掲げるとおりとする。三 (略)当該動物用医薬品使用対象動物の種類に応じこれらの表の使用禁止期間の欄に掲げる期間は、使用してはならないこと
動物用医薬品及び医薬品の使用の規制に関する省令
この文言の下にいくと別表があり、多くの動物用医薬品とその使用禁止期間がずらーっと並んでいます。
これに違反すると、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処せられます。
ミルタンクを手持ちのポケモンにしているトレーナーの皆さんは、普段使用している「キズぐすり」や「げんきのかけら」などにこれらの薬物が含まれていないか確認しましょう。
ミルタンクといったら、コガネシティのジムリーダーである「アカネ」が有名ですが、彼女はこの法律を知っているのでしょうか、、、
ジムリーダーという責任のある立場にいますから、知らなかったら問題ですね。
他にも、、
・狂犬病予防法に則ってポケモンの予防接種を行なっているのか
・育て屋が動愛法に基づき申請を行ったり、規定の頭数以上を預かっていないか
などについても本当は考察していきたかったのですが、長くなりますしここら辺でやめておきます。
法律という視点から、ポケモンの世界を少し厳しめに見てきました。
もちろんポケモンについての記述はすべてジョークですが、今回の記事でご紹介した法律は実際に存在します。
動物たちと人間は社会の様々なところで、関わり合いを持っています。
両者が適切な関係を築き、健康に暮らしていけることを目的として、これらは定められています。
この記事を通じて、少しでも動物に関わる法律についての関心・理解が深まったのであれば嬉しい限りです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。