2021 Spring BOOKs

新年度が始まってから早くも1カ月が経とうとしています。

春休み中に本を何冊か読んだので今回の記事でご紹介したいと思います

気になったのがあれば、GWに是非読んでみてはいかがでしょうか。

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あなたの体は9割が細菌

「腸内細菌が肥満とうつ病の原因。」と言われたら信じられますか?

僕は当初全く信じていませんでしたが、この本を読んで人間の健康と腸内細菌は密接に関わりあっていると考えるようになりました。

普段は気に留めない体内の細菌についてフォーカスを当てた本です。


この本の原題は”10% HUMAN”。私たちの体の内、人の細胞はたった10%しかありません。

残りの90%は何なのでしょうか。それは細菌です。

普段私たちは、体の大部分を占めているこれらの細菌を気にしませんが、実は肥満、うつ病、アレルギーなどといった病気と密接に関わりあっているのです。

特に微生物の組成が重要です。人間は長い時間をかけて体内の微生物とともに進化してきて、調和のとれた関係を保ってきました。

しかし近年この調和が乱されることが多くなりました。

主な原因は抗生物質と食生活です。

現に、抗生物質が使用され始めた20世紀中ごろから肥満とうつ病の発生率が急増しています。

また以前と比べて人間は食事中の食物繊維の摂取量が減り、肉や油物を多く食べるようになりましたが、これも腸内細菌叢に大きな影響を与えます。

人間と細菌の関係を見つめ直すことで、人間が本来どういう風に生活するべきかを考えさせられた本でした。

砂糖の世界史

まず初めにお伝えしたいのが、これは砂糖について事細かに説明した本ではありません。

砂糖という視点から中世の大航海時代とそれに伴い始まったグローバル経済の黎明期を説明した本です。


今では当たり前のように使っている砂糖ですが、一昔前は非常に貴重であり、ごく一部の上流階級の食事や、薬や装飾に使われているぐらいでした。

十字軍の遠征によりヨーロッパの国々はイスラム教徒からサトウキビの栽培法と製糖の方法を学びます。

その後、15・16世紀になりヨーロッパの国々が船で世界の様々なところに進出し始めると、奴隷を使って中米や南米の植民地で砂糖の製造を始めるようになりました。

これはプランテーションと呼ばれます。コーヒーや綿花でも行われていました。

砂糖は貴重ですから高く売れます。いろんな国がこぞって砂糖の生産を始めるようになりました。

多くの砂糖を生産するために、さらなる労働力が必要なので多くの奴隷がアフリカから運ばれるようになります。

「砂糖のあるところに、奴隷あり」と言われていたほどです。

サトウキビを栽培するのもヨーロッパからは遠く離れているところであり、そこの現地の人々にも大きな影響を与えます。

特にカリブ海の島々は、多くの黒人奴隷と少数の白人支配者が移住したことで現地の人々が追いやられ、島の人間の構成が大きく変わりました。

500年ほど前の出来事ですがその影響は現代にも残っており、プランテーションが広く行われていた地域のほとんどは現在「開発途上国」と呼ばれています。

また、砂糖・タバコ・綿花などの生産は三角貿易をもたらしました。

三角貿易とはヨーロッパからアフリカに、布製品や鉄砲を送り、アフリカで奴隷を手に入れ、その奴隷を中米・南米に送り、そこで製造された砂糖などを本国であるヨーロッパに持ち帰るという貿易のことです。

このような流れの中で東インド会社という世界初の株式会社も誕生しました。

現在は世界中を物が巡って取引が盛んにおこなわれていますが、元をたどるとこの時代に始まったんですね。

普段何気なく使っている砂糖ですが、このように当たり前に手に入れられるようになるまでに多くの黒人が犠牲になり、様々な地域に現在にまで残る大きな影響を与えたということを知り、驚きましたし、人間の悲しい一面を目にした気がしました。

東インド会社とアジアの海

「砂糖の世界史」を読んでいて、東インド会社が出てきました。

今までこの名前を何回も聞いたことがありましたが、実際にどのような会社であったのか知らなかったのでこの本を読んで理解を深めようと思いました。

史上初の株式会社がどのように始まり、どのように衰退していったのかを、ヨーロッパ、アジアの国々、そして日本の視点から説明された本です。


ヨーロッパからインドへの航路を発見したヴァスコ・ダ・ガマなどのおかげで、インド洋周辺の国で香辛料が手に入るということが分かっていました。

その時代、ヨーロッパの国々では、香辛料は上流階級の食事や、医薬品として用いられており、とても大きな需要がありました。

当初はポルトガルのみがインド周辺に行き、香辛料の取引を全て握っていましたが、オランダが自力でのインドへの航海に成功した事を機に、他の国々でもポルトガルに頼らずに自分たちで航海できるのではないかと考えます。

しかし、容易に想像できるようにインドまで航海には非常に多額のお金がかかります。その上、無事に帰ってこられるという保証もなく、とてもリスキーな商売でした。

そこで、様々な資産家から出資を募り、利益が出たら出資率に従ってお金を配分するという方法を用いて、航海に必要な資金を集めることに。

このような経緯でイギリス東インド会社が、関ヶ原合戦の翌年の1601年に誕生しました。

その後、他の国でも東インド会社が設立されていきます。

彼らは、インド洋周辺の国々と有効な関係を築いたり、時には占領したりして事業をどんどん拡大させていきます。

ヨーロッパの他の国々との勢力争いも繰り広げられました。

400年も前に、このような物や人の大規模な移動があったと知り、驚くばかりです。

本書では、当時の日本のことについてもよく説明されています。

鎖国がなぜ行われ、ヨーロッパの国々との貿易を制限したのかなど、徳川政権の海外貿易に対する姿勢なども理解することができました。

東インド会社はこの時代に、間違いなく世界中に大きな影響を与えました。

中世の世界史を勉強したいという方には是非とも読んでいただきたい本です。

恐怖の地政学

「地政学」というものに今まで触れたことがなかったので、今回読んでみることに。

戦争や歴史上の出来事を、地形という観点から考えたことがなかったので、とても良い勉強となりました。

 
 

原題は”Prisoners of Geography”で直訳すると「地理の囚人」という意味。

どんなにお金や力があっても、地形には抗うことができないということがよく表されている題名だと思います。

残念ながら、日本語の題名ではそのニュアンスが表現されていませんが…

1章から10章まであり、様々な地域の説明がされています(北極圏も!)。

特に興味深かったのは、中国とロシアの章です。

どちらとも大国ですが、どのような経緯で今の国境線に落ち着いたのか、その経緯を知ることができて良かったです。

また、世界のいたるところで国境を挟んで”バチバチ”している地域が思っていたより多いということに驚きました。

国防にあれだけ多額なお金が回されているのにも納得です。

出版されたのが2016年と比較的新しいので、読んでおくと最近の国際情勢をまた違った角度から見ることができるかもしれません。

The Color of Law

2020年は”Black Lives Matter”の掛け声とともに、黒人差別への非難が世界中で叫ばれました。

日本でもかなり報道されていたので記憶に新しいと思います。

しかし、黒人差別に関してほとんど無知であったために、なぜ世界中を巻き込んだこのような大きな騒動になったのか理解することができませんでした。

アメリカでの黒人差別を理解するために本書を読むことにしました。


差別は人間の感情からくるものであり、日本でいうところの「いじめ」に近いものであると今まで考えていました。

つまり、白人と黒人が良好な関係を築けば明日にでも差別は無くなるだろうという浅はかな考えを持っていました。

しかし、本書を読むにつれてアメリカでの黒人差別は非常に根深い問題であるということを知ります。

本のタイトル”The color of law”にも表現されているように、黒人差別は法律や政府の政策にも存在していたのです。

「法律で差別を受けるとは?」と疑問に思うかもしれないので例を挙げたいと思います。

同じ住宅を購入するとき白人よりも黒人が多くの抵当を払わなければならず、黒人が住む地域が政府によって決められていたので職場の近くに住むことができず毎日1時間以上かけて通勤しなければならなかったこと、黒人が住めと命令された地域が狭かったためにスラムのようになったこと、かと思えばその逆に黒人が住んでいる地域を解体したいがためにそこに高速道路を建設したこと、などなど本で紹介された事例はきりがありません。

出典:https://erenow.net/modern/color-of-law-forgotten-history/10.php

上の写真をご覧ください。

これは本の中でも紹介されているものですが、ある黒人の家族が白人が住む地域に引っ越してきた時の様子です。

黒人家族が到着するとすぐにおよそ300人もの白人が家の周りに集まり、罵ったり、庭に立てられた十字架に火をつけたり、石を投げたりしました。

通勤や通学にも支障が出たため、黒人保護団体やほかの人権団体の取り計らいでボディーガードが付けられました。

最終的には警察に守ってもらうことができましたが、それでも嫌がらせは続いたそうです。

しかし、驚くべきことは初日の暴動から1人も逮捕者が出ていないことです。

警察に文句を言っても、人数が足りなかったというばかりだったそうです。

このことから警察をはじめ、政府がこのような黒人差別に目をつぶっていたことが伺えます。

50年ほど前までこのような差別が堂々と行われていたことには驚きです。

残念ながら差別は現在も残っているうえに、黒人は長い間社会的地位が低かったことから、貧困のスパイラルから現在も抜け出せずにいます。

アメリカの白人と黒人の所得には未だに大きな差があります。

バイデン政権ではハリスさんが初のアフリカ系・アジア系の副大統領(初の女性副大統領でもあります)になり、先日はジョージ・フロイドさんを窒息死させた警官が有罪判決を受けました。

少しづつでも変わっていってほしいです。


どれも面白いので是非読んでみてください!

ちなみに本は以下の記事でも紹介しています。

獣医学生の本棚