道具を使う鳥たち

長い間人間だけが道具を使用する動物であると考えられていました。

しかし現在では、霊長類を含む多くの哺乳類で道具の使用が認められていますし、鳥でも100以上の種で観察されています。

今回の記事では鳥がどのように道具を利用しているのかについて書いていきたいと思います。

エサのかき出し

1835年、チャールズ・ダーウィンがガラパゴス諸島に降り立ちます。

彼はこの島で13種類のフィンチを見つけ、彼らが食性に合わせてクチバシの形態を変化させていることを発見しました。

しかし、フィンチの中で1種類だけ特殊な生態を持つものがいました。それがキツツキフィンチ(Camarhynchus pallidus)です。

ガラパゴス諸島にキツツキは生息していなかったため、このフィンチはキツツキのニッチ(生態的地位)に適応したと考えられています。

そんな彼らは樹皮の隙間や、裂けた枝の間などに住む幼虫をエサとしているのですが、キツツキのような長い舌を持っていません。

困ったキツツキフィンチ達はサボテンのトゲや小枝をくわえて、幼虫などをひっかき出すようになりました

これが最初に報告された鳥の道具の使用だと考えられています。

他にも道具を用いてエサをかき出す鳥がいます。

それはニューカレドニアに生息するカレドニアカラス(Corvus moneduloides)です。

この鳥の驚くべき点は、草を切り取って道具を作ることです。

使用するのはパンダナスという植物で、根本は太くし、先端にいくほど細くなるようにクチバシを使って上手に切り取ります。

飼育下での実験でも、与えられた課題を解決するために工夫して道具を作ったことが確認されています。

これらの実験は検索するとすぐに出てくるので気になる方は是非調べてみてください。

このように自分の目的に合わせて道具を作る知能を彼らが持っていることには驚かされました。

カレドニアカラスが道具を作るのが上手である理由として、彼らが立体視できる範囲が広いことと、真っ直ぐなクチバシを持っていること、の2つが考えられています。

また、集団ごとに作る道具が多少異なることから、この道具を作るという行動にはある程度世代を超えた伝達が行われているかもしれないと予想されています。

道具を使ってエサをかき出そうとしている様子と、使用されたパンダナスの草 ( Amanda seed, Richard Byrne, 2010)

ドラミング

オーストラリアにヤシオウム(Probosciger aterrimus)という、赤い頬と黒い冠羽が特徴の鳥がいます。

見た目も特徴的ですが、実はこの鳥は自分で作った道具を楽器のように使って音を出す人間以外の唯一の動物なのです。

彼らは枝を自作しそれを用いて木を叩くことでリズムを刻み、その音は100m先にまで到達します。

個体ごとに独自のリズムを持つことが知られており、その都度ランダムに叩いているわけではなく、毎回決まったリズムで音楽を奏でているそうです。

研究でオスがこの”演奏”を始めたときの7割で近くにメスがいたことから、この行動の目的は求愛であると考えられています。

まだ明らかにはなっていないそうですが、メスも特定のリズムを好むことが予想されており、自分好みのリズムを叩くオスとつがいになると予想されています。

非常に興味深い行動を持つヤシオウムですが、残念なことに生息域が非常に狭く、繁殖のペースも非常に遅いことから絶滅の危機にあります。

推定個体数は1,500羽程度であり、今後50年のうちに半分になると予想されています。

ぜひ一度野生の個体でこの行動を観察してみたいものですね。

本能?それとも文化?
ヤシオウムはオーストラリアに加えて、パプアニューギニアとインドネシアにも生息しています。しかし、このドラミング行動が見られるのはオーストラリア北東部のケープヨーク半島に生息する個体だけです。つまり、この特徴的な行動は本来備わっているものではなく、特定の地域で広まった”文化的”な行動だと考えられています。このような動物の”文化”は日本では、幸島のサルの芋洗いが有名ですね。

魚釣り

1958年、ルイビル大学のLovell教授は休暇中に湖に行き、そこでアメリカササゴイ(Butorides virescens)にパンの切れ端を与えました。

すると、その鳥はパンを水に浮かべ漂っているところを一心に見つめ、クチバシの届かないところに行きそうになると、回収して足元に再度落としたそうです。

しばらくすると、急にパンのあった場所に頭を勢いよく入れました。

そのクチバシには魚がしっかりと捕まえられていたそうです。

これが、最初に観察された鳥のベイト(餌)を用いた”魚釣り”で、サギ科、カラス科、猛禽類などで観察されています。

パンの切れ端以外にも、葉っぱ、枝、羽、昆虫、プラスチック片などを餌として使用することが知られいますが、食べられるものを餌として用いた方が、釣りの成功率が高いみたいです。

話はこれだけで終わりません。

この行動から鳥の知能についても分かることがあるのです。

魚釣りを行う種の中には肉食の鳥もいます。

つまり、パンや昆虫を餌にせずに自分自身で食べることもできるのです。

また、餌にしてしまうことで貴重な食事を失う可能性もあります。

このような欲求やデメリットがあるのにも関わらず、あえてこれらのものを魚釣りの餌として使用するのです。

このことから、より良い食事を得るために目の前の欲望に勝つことができるという「自制心」が鳥たちにあることがわかりました。

日本ではササゴイでよく観察されるそうです。

北海道ではあまり見られない種類なので、本州に行った際に見てみたいと思います!

魚釣りの起源
この行動がどのようにして生まれたのかはまだ明らかになっていませんが、世界の色々な地域で、さまざまな種類の鳥で確認されていることから、起源はバラバラであり、あらゆる地域で独自に発展した行動であると考えられています。

武器

道具を武器として使用し、他個体や他種の鳥から自分を守ったり、獲物を獲得する例が観察されています。

この武器の使用が見られるのはカラスの仲間だけだそうです。

ウオガラス(Corvus ossifragus)やワタリガラス(C. corax)は、乾燥した草を卵を温めているカモメの上に落とし、親鳥がいなくなると卵を奪うことが分かっています。

また、他の種でも枝、岩、まつぼっくりを人の頭の上に落とし、ヒナを守ろうとする行動が知られています。

枝を口にはさんで攻撃することも知られています。

クチバシで直接攻撃せずに、枝を用いるのは相手との距離をとることができるからと考えられています。

羽繕い

道具を使用した羽繕いはオウムの仲間でよく見られることが知られていますが、野生下ではあまりみられず、そのほとんどは飼育下のオウムで観察されたものです。

この行動は、自分のクチバシや足が届かない身体の部位を掻くという効果があるかもしれませんが、
同時にストレスの結果生じた異常行動の1つであるとも予想されています。

ただ、飼育下の方が観察しやすいため野生個体よりも頻繁にこの行動が観察されているという可能性も高く、いまだに結論は出ていません。

野生下では複数の個体がお互いに羽繕いすることができるため、あえて道具を用いて行う必要がないということも考えられます。

補足ですが、お互いに羽繕いするのは求愛行動の1つであり、この「相互羽繕い」の頻度が高いほど、寄生虫の数が少ないと言う研究結果もあります。

番外編①:アリを”浴びる”??

アリを体に擦り付ける鳥がいます。

これは「蟻浴」と呼ばれ、アリが分泌するギ酸などを利用して寄生虫、カビ、細菌などを防ぎ、体を綺麗に保つ役割があると考えられています。

また、換毛期で多く見られることから、研究者の中には換毛で傷ついた皮膚を落ち着かせるために蟻浴をしていると考えている人もいるそうです(本当?笑)。

この行動は、日本に生息する鳥ではカラスやムクドリで認められていますが、世界中では200以上の種で観察されています。

アリの他にもヤスデやゴミムシを使用することが分かっていますが、どちらも殺虫性の化学物質を放出します。

生き物だけでなく防虫剤を利用して羽繕いする例も確認されており、鳥たちは様々なものを利用して自分の体をきれいにしようとしていることが伺えます。

蟻浴の目的はアリを食べること!?
鳥はアリをエサにもしますが、蟻浴をすることでギ酸を取り除き食べやすくしているという説もあります。実際、ギ酸を貯める嚢を持つアリと持たないアリを用いて実験したところ、持つアリは半数以上が蟻浴に使用され、持たないアリはほぼ全てがすぐに食べられてしまったそうです。自分の体を綺麗にすると同時に、アリを美味しく食べることができて一石二鳥ですね。

番外編②:火事場泥棒?山火事を起こす鳥

トビ(Milvus migrans)、フエナキトビ(Haliastur sphenurus)、チャイロハヤブサ(Falco berigora)の3種類の鳥は燃えている木の枝を運ぶことで山火事を発生させることが知られており、オーストラリア北部の先住民族の人に”firehawks“と呼ばれています。

しかし、なぜ火事を起こすのでしょうか?

これらの鳥は山火事が発生すると、炎の前線で飛び回ったり、枝に止まったりして小鳥、トカゲ、昆虫、などの獲物がでてくるのを待ち構えます。

つまり、火事を起こすことで逃げようとしている昆虫や小動物を捕まえやすくしているのです。

この驚くべき行動は最近明らかになったばかりですが、先住民族の人たちは4万年前から認知していたと考えられています。

まさか鳥の世界にも放火魔がいたとは、、、

鳥の風上にも置けないやつらですね。


今回の鳥が道具を巧みに使いこなしていることを知って、彼らの賢さの一端を垣間見れた気がします。

さえずりでコミュニケーションをとることも知られていますし、帰巣や渡りの際のナビゲーション能力などを考えると非常に頭の良い動物であると伺えます。

さすがに人間のように道具を使えるようにまではならないでしょうが、今後も色々な行動が発見されるといいですね。

最後まで読んでいただきありがとうございました!