ウミガメが泣いている ~知られざる生態と迫る危機~

大学2年生の夏休みに屋久島に2週間滞在してウミガメの調査のボランティアをしました。

月日がかなり経ってしまいましたが、とても興味深い生き物であり、人間の影響で絶滅の危機に瀕しているので、今回ご紹介したいと思います。


ウミガメとは?

出典:https://www.thoughtco.com/prehistoric-turtle-pictures-and-profiles-4047611

ウミガメとは海洋に住んでいるカメのことを指します。

現存するのは7種のみで、ウミガメ科とオサガメ科の2科に分けられます

太古の昔にはおよそ200種類のウミガメがいたとされています。

陸ガメとの違い

陸ガメや淡水に生息するカメの甲羅は非常に発達していて、手足・頭部・尾部の箇所以外に穴は開いていません。

一方のウミガメでは甲羅の発達が不十分で甲羅の縁には隙間があります。また、腹側はもっと隙間だらけです。

一方で、四肢はオールのようになっており泳ぐのに非常に適した形態となっています。

カメと言えば手足を引っ込める姿が特徴的ですが、ウミガメはそれができません。

ウミガメは甲羅を小さくし、身体を軽くさせ、手足をオールのように変化させることで泳ぐのに特化した形態に進化したと考えられます。

ウミガメの種類

現存するウミガメは7種のみです。

日本近海では、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ、オサガメの5種類が確認されています。

この中で日本で産卵するのはアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種のみです。

アカウミガメ

出典:https://www.wildrepublic.com/product/loggerhead-sea-turtle/

世界では地中海沿岸、インド洋、アメリカ東海岸、オーストラリアなどで、日本では福島県以南の太平洋沿岸、石川県以南の日本海側で産卵します。

背甲が赤褐色のためこの名前が付けられています。

英語では”Loggerhead (sea turtle)”と呼ばれ、これは 「大きな頭」という意味を持ちます。

その名の通り、大きく発達した頭を持っています。

肉食性で甲殻類などの底性生物を好んで食べます。

IUCNによると絶滅のランクは危急種(VU)に指定されており、環境省によると絶滅危惧ⅠB類に指定されています。

アオウミガメ

出典:https://www.scubadiving.com/green-sea-turtles-thrive-in-australia-recovery-effort

コスタリカ、オーストラリア北東部、オマーン、マレーシアなど、日本では小笠原諸島や南西諸島で産卵します。

背甲は緑黒色であり、草食性で海藻や藻類を食べます。

IUCNによると絶滅のランクは絶滅危惧種(EN)に指定されており、環境省によると絶滅危惧Ⅱ類に指定されています。

また、ハワイと太平洋東部の熱帯海域を中心に色が少し黒いアオウミガメがおり、一部の研究者から「クロウミガメ」と呼ばれています。

遺伝子解析の結果から、アオウミガメの亜種とする意見が主流ですが、形態的な特徴から独立腫とする意見もあります。

タイマイ

出典:https://kids.yahoo.co.jp/zukan/animal/kind/reptiles/0013.html

インド洋、大西洋、太平洋に生息し、日本では沖縄本島以南で産卵が確認されています。

背甲は屋根瓦状に重なり、茶色地に茶褐色の複雑な模様をしています。この甲羅は「べっ甲」の原料となっています。

雑食性で主に海綿などの無脊椎動物を食べます。

IUCNによると近絶滅種(CR)、環境省によると絶滅危惧ⅠB類に指定されています。

ヒメウミガメ

出典:https://www.seaturtlestatus.org/olive-ridley

「アリバダ」と呼ばれる集団産卵を行うウミガメです。アリバダはテレビなどでもよく取り上げられていますね。

アンティル列島、南アメリカの北部沿岸、西アフリカ、インド洋、オーストラリア、東南アジアに生息しています。

背甲はオリーブ色で丸みを帯びており、雑食性で甲殻類や魚類、軟体動物などを食べます。

IUCNによると危急種(VU)に指定されています。

ケンプヒメウミガメ

出典:https://www.vims.edu/research/units/legacy/sea_turtle/va_sea_turtles/kemps_ridley.php

メキシコ湾とアメリカの西大西洋の沿岸の限られた海域にのみ生息しています。

メキシコにある「ランチョ・ヌエボ」という砂浜でのみ産卵を行うそうです。

背甲は円形に近く、色は灰白色またはオリーブ色です。

ヒメウミガメと外見は似ていますが、生息地が全く異なります。

その一方で、ヒメウミガメと同様に、このウミガメもアリバダを行います。

ケンプヒメウミガメは肉食です。甲殻類を好みますが、軟体動物も食べます。

近絶滅種(CR)に指定されています。

ヒラタウミガメ

出典:https://www.seeturtles.org/flatback-turtle

オーストラリア北部の限られた地域のみで産卵します。また、生涯を通じて沿岸域を離れることがありません。

一度に産む卵の数は50個と他の種に比べて少ないですが、その代わりに卵のサイズは大きいです。

背甲は灰色を帯びたオリーブ色で甲羅の厚さはウミガメの中で最も平たいです。

雑食性で海藻や甲殻類、貝類、ヒトデ、魚類などを食べます。

このウミガメは調査があまり進んでいないため、絶滅危惧のランクは情報不足である「DD」となっています。

オサガメ

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Leatherback_sea_turtle

今まで紹介してきた6種のウミガメは、カメ目ウミガメ科に属しています。

しかし、このオサガメのみ科が異なり、カメ目オサガメ科に分類されています。

オサガメの甲長は120~180cmほどもありウミガメの中で最も大きい種です。
今まで見つかった個体の最大の体重が916kgであり、1トン近くもあります。

オサガメは他のウミガメと異なる点が多くありますが、その中で最も特徴的なものは甲羅を欠くことです。

オサガメは甲羅を発達させず、その代わりに「皮骨」が含まれた厚い皮で覆われています。これが英語名の”Leatherback (sea turtle)”の由来となっています。

また、爬虫類でありながら、体温を一定に保つ能力を持ち、水温の低い地域でも生息することができます。

加えて、潜水能力にも優れ、最大で1,200mまで潜ることができると言われています。

サイズが大きく、遊泳速度も早いため水族館などでの飼育が非常に難しく、目にする機会は滅多にありません。

アリバダとは?
出典:https://www.seaturtlestatus.org/kemps-ridley
数千、数万のメスのウミガメが数日のうちに一度に砂浜に訪れて産卵する現象のことです。ヒメウミガメとケンプヒメウミガメで見られます。ちなみにアリバダはスペイン語で「到着」を意味します。

絶滅危惧種の分類について
IUCNの場合絶滅のランクは上から、EX(絶滅)、EW(野生絶滅)、CR(近絶滅種)、EN(絶滅危惧種)、VU(危急種)、NT(準絶滅危惧種)、LC(低危険種)、DD(情報不足)となっています。


僕たちが普段耳にするレッドリストには「IUCNレッドリスト」と「環境省レッドリスト」の2種類があります。IUCNは世界のデータをもとに、環境省は国内のデータをもとに作成します。それぞれが独自で評価をしているため、片方の評価に他方が合わせるということはしません。

回遊

↑↑アカウミガメでの2通りの回遊パターン (a)浅海型 (b)海洋型↑↑
Catherine M McClellan and Andrew J Read. Complexity and variation in loggerhead sea turtle life history. Figure1より転載

従来ウミガメは、子ガメのうちは外洋で浮遊生物を食べ(「子ガメのふ化、脱出から回遊」で後述)、成長すると浅海に移動して底生生物を食べるようになると考えられていました。

しかし、アカウミガメに発信器を付けてGPSで回遊経路を追跡してみると、成長してからも外洋に生息し続ける個体がいることが分かりました。

調査の結果、同じ砂浜で産卵するアカウミガメのメスのうち8割は浅海で底生生物を食べ、2割が外洋で浮遊生物を食べて生活していることが分かりました。アカウミガメのオスでも同様な結果が得られました。

また、外洋に住んでいるウミガメの方が体のサイズが小さいことも調査の結果わかったそうです。

ウミガメの成長はエサの豊富さと海水温に大きく左右されますが、浅瀬では成長が30%も早くなるという研究結果もあります。

アメリカの南東の海岸でアカウミガメを対象に行った実験によると、ここでも浅海に残る個体と、外洋に移動する個体に分かれました。

ですがこの実験の面白いところが、浅瀬に残った個体は海水温が下がってくると浅海を通りながら南方に移動したということです。

そして海水温が温かくなると元も場所に戻ってくるそうです。

このように浅海に生息する個体の移動には季節性があることが分かっています。

この回遊のパターンは固定ではなく、浅海型だったものが海洋型となったり、その逆もあると考えられています。

繁殖

出典:https://scienceworld.scholastic.com/issues/2017-18/032618/stopping-turtle-poachers.html

アカウミガメを例に説明していきます。

アカウミガメの寿命は70-80歳ですが、メスのアカウミガメはおよそ35歳の時に性成熟を迎えます(性成熟の年齢は資料によって異なりますが、ほとんどの種で20~30歳前後であるとされています)。

北半球では3月の下旬から6月の上旬にかけて交尾が行われ、産卵は4月後半から9月の上旬にかけて行われます。

2-3年おきに砂浜近くの海岸に集まり、ペアを探して交尾を行います。メスは2-3年おきに交尾しますが、オスは毎年交尾をすることができます。

メスは何匹かのオスと交尾します。これは体内に精子を溜めておき、繰り返し産卵するためです。

そして、彼女らが生まれた砂場に戻ってきて産卵を行います。

1回の産卵で100個以上の卵を産みます。
平均して115個で、188個産んだ個体もいたそうです。

1シーズン中におよそ2週間ずつの間隔をあけて、産卵を3~5回行います。

ウミガメが何歳まで繁殖を行うかはまだ分かっていないようですが、アオウミガメでは38年間繁殖が確認された個体もいたそうです。

産卵行動は大きく①上陸、②穴掘り、③産卵、④穴埋め、⑤帰海の5段階に分けられます。
以下より産卵の流れについて詳しく書いていきます。


STEP.1
上陸

昼は沖合で待機しており、夜になると上陸してきます。
上陸しても周囲の安全を伺いながらゆっくりと進んできます。
上陸してから穴掘りを開始するまで10~15分かかるそうです。


STEP.2
穴掘り

穴掘りは大きく2段階に分けられます。
最初に自分の身体が入るサイズの穴を掘り、次に卵を産む深い穴を掘ります。

砂の状態を身体で感じ、適切だと判断すると前肢・後肢を共に使って体が入るサイズの穴を掘ります。これは「ボディーピット」と呼ばれます。

その後身体を前方にずらして後肢で穴掘りを行い、肢が届かなくなるまで穴を掘り続けます。

穴の大きさはウミガメのサイズによって異なりますが、概ね直径25cm、深さ60cmだそうです。
穴掘りには30~40分かかります。


STEP.3
産卵

およそ10秒おきに2~3個の卵を産みます。
1回の産卵での平均の卵の数は115個だそうです。
卵が出てくるところは通常体で隠れており、目にすることはできません。
産卵時間は10~30分です。


STEP.4
穴埋め

産卵が終了したら後肢で穴を埋め、身体を持ち上げて下におろし、砂を固めます。
穴が塞がったら、前肢で砂を後方に飛ばしながら前進し、穴がどこにあるか分からないようにします。
穴埋めからカモフラージュまでは30~40分かかります。


STEP.5
帰海

産卵が終了すればウミガメはまっすぐ海に帰っていきます。


産卵後のウミガメは沖合の岩礁帯で休み、およそ2週間の間隔をあけて次の産卵に臨みます。

この産卵の間にはあまりエサを食べないようです。
そのため産卵する個体はシーズンに入る前に栄養を蓄えます。

上陸しても穴をうまく掘れなかったり、産みたい場所が見つからない場合はそのまま海に帰る場合もあります。

ウミガメの涙について

ウミガメが産卵の時に涙を流すのは有名なことだと思います。

あれは産卵が苦しくて泣いているのではなく、塩類腺から余分な塩分を排出しているだけなのです。

それが陸上ではたまたま「涙」のように見えます。

塩類腺については下の記事で詳しく解説しています。

海鳥は何を飲むの?鳥の塩類腺について

子ガメのふ化、脱出から回遊

出典:https://www.theannamariabeachresort.com/will-you-see-anna-maria-island-sea-turtles/

産み落とされた卵は砂中の温度によって異なりますが、45~75日でふ化します。

ふ化したおよそ100匹の子ガメは砂中でもがきながら、地表まで60cmほどの距離を登ってきます。

ふ化してから地表に出るまでに1週間程度かかるとされています。

子ガメたちは夜になるのを待ってから一斉に出てきます。みんなが同時に出てくるのは、天敵の捕食による全滅を防ぐためだと考えられます。

しかし中には、遅れてしまい他の子ガメと一緒に出てこられないものもいます。

僕がウミガメのふ化調査のボランティアをしている時も、すでにほとんどの子ガメが出ていった巣穴からまだ生きている個体が出てきたことが何度もありました。

生まれた子ガメは海まで移動し、沖合まで自力で泳ぎ海流にたどり着きます。

海流の中には子ガメのエサが豊富ですし、海藻の陰などに隠れて天敵から身を守ることもできます。

彼らはその海流の中で数年間生活し、十分に大きくなると生まれたところに戻ってきます。

屋久島で生まれた子ガメは黒潮と北太平洋海流に乗ってアメリカの西海岸に到達するとそこで成長して、帰りはカリフォルニア海流と北赤道海流に乗って生まれた場所に戻ってくるそうです。

アメリカの東海岸で生まれた子ガメはメキシコ湾流などの海流にたどり着き、大西洋まで移動します。

子ガメの生存率
子ガメは巣穴で卵の状態で食べられることもあれば、ふ化して海に入るまでの間に襲われたり、もちろん海中にも天敵はいるので海にたどり着いてからも油断できません。このように子ガメは常に天敵の脅威にさらされています。

そのため生存率は非常に低く、1000~5000に1匹しか大人になることができないとされています。

ウミガメの方向感覚

ウミガメはどのようにして回遊した後に自分の生まれた場所に戻って来れることができるのでしょうか?

まずウミガメは渡り鳥のように磁場を感じることができると考えられています。

この磁場によって方向感覚が分かると同時に、自分の位置も把握することができると考えられています。

磁場の他に太陽や、夜間は星座や北極星を見ることで方向を知ることができると最近の研究から分かっています。

次に子ガメについてです。

子ガメが巣穴から出てくるのは真夜中で周りは真っ暗です。
それにも関わらず、子ガメはまっすぐ海に向かって一斉に歩いていきます。

どのようにして海の方向を把握しているのでしょうか?

1つめは「明るさ」です。
夜間では海は月や星の明かりを反射して陸と比べて明るくなっています。
子ガメはこれを利用して明るい方向に移動します。

実験でも眼を覆われた子ガメは海にたどり着くことができず、巣穴の周りにライトを置いた実験では、より明るいライトの方に子ガメは移動していきました。

近年は産卵場所付近に建物や街灯が多くできて、海とは反対方向に進んでしまうことが問題となっています。

子ガメが海の方向を把握するのに利用してるものはもう1つあります。

次のような実験が行われました。

巣穴よりも高いところに明るいライトを置き、低いところに暗くしたライトをおきました。

今までの考えで行くと、子ガメはより明るい方に移動するため巣穴よりも高い位置にあるライトの方向に向かうと考えられます。

しかし結果は、低いところにある暗くしたライトの方向に移動していったのです。

子ガメが利用しているもう1つの指標。それは「高低差」です。
子ガメは生まれたら低い方向に移動します。

上でも書いたように母ガメは少し高いところに昇ってから産卵を行うので、海は巣穴より低いところにあると考えられます。

以上のことをまとめると、子ガメは生まれると低くて明るい方向に進むと考えられています。

性別の決定

ウミガメをはじめ爬虫類の多くは、卵の時の周囲の温度で雌雄が決まります。

ウミガメの場合は、卵が産み落とされてからふ化するまでの3分の2の期間の温度が低いとオス、高いとメスが生まれます。

その境となる温度(pivotal temperature)は種によって異なりますが、ほとんどの種では29-30℃となっています。

ただ同じ温度でも、オスが生まれることがあれば、メスが生まれることもあり、pivotal temperatureの箇所でちょうど1:1の確率で生まれます。

しかし最近の研究では、性決定に湿度も関係していると考えられています。
湿度が非常に高い環境では、pivotal temperature付近やそれより1℃ほど高い条件でも高確率でオスが生まれるそうです。

そのため現在では、温度と湿度で性決定を予想するべきだと考えられています。

地球温暖化と性別の偏り

ウミガメの雌雄が温度で決まることが分かりましたが、そうなるとあの影響が気になる人がいるのではないでしょうか?

地球温暖化です。

上でも述べたように温度が高いとメスが生まれます。
そのため地球温暖化が進むとメスのウミガメしか生まれなくなってしまうのではないでしょうか。

オーストラリア北東岸に世界最大のサンゴ礁地帯である”northern Great Barrier Reef(nGBR) “が広がっています。

そこは世界の中でも最も大きなアオウミガメの生息地の1つとなっています。

この場所では80%以上のアオウミガメがメスであると推測されています。

ウミガメはメスが交尾するのは2-3年に1回で、オスは毎年交尾するためメスの頭数が多いほうがかえって都合がいいのではないかと考えられてきました。

しかし、オスがあまりにも少なすぎるとメスは交尾相手を探すことができなくなり、子孫を残すことができません。

実際nGBRでは近年個体数が減少しているそうです。

ウミガメも動物なので環境の変化に適応できるのでは?と考える人もいると思います。

カメの最も古い化石は1億2千年前(三畳紀)に見つかったものですが、実際カメが幾度かの気候変動を生き抜いてきたことがその化石によって明らかになっています。

しかし、地球温暖化による気候の変化は非常に急速であり、ウミガメたちが適応するだけの十分な時間があるとの保証は全くありません。

産業革命以前から地球の気温は約1℃(0.8-1.2℃)上昇しました。

研究によると、あと0.5℃気温が上がると、砂中の温度が30.6℃を越えほとんどメスしか生まれないような状況になってしまうそうです。

現在の状況が続けば、2030年から2052年の間に気温上昇が1.5℃に達する可能性が高いとの報告もあります。

直面する問題

地球温暖化

上にも書いたようにウミガメの性は温度によって左右されるため、地球温暖化が進むにつれてメスの個体数の方が極端に多くなってしまいます。

ウミガメは砂浜で産卵しますが、地球温暖化により海水面が上がると産卵場所が少なくなってしまいます

台風などの悪天候が増えると、雨や風で巣穴が流されてしまうリスクが増えてしまいます。

ウミガメの成長や繁殖は海水温とエサの豊富さによって大きく左右されますが、地球温暖化によってどちらの因子も大きく影響されているので、ウミガメにとって悪影響です。

これらに加えて、海水温と営巣には負の相関があることが分かっているそうです(海水温が高いほど、営巣は少なくなります)。

護岸工事

出典:http://www.kuroshima.org/pg109.html

消波ブロックなどの人工物によって砂浜の環境が変化するとウミガメの上陸が阻害されてしまいます。

また、護岸工事をすることで砂浜の砂が年々少なくなり、砂浜の面積が少なくなってきています。

産卵場所である砂浜が少なくなれば、もちろん生まれてくるウミガメの数も少なくなります。

漁業

出典:https://www.scuba-monkey.com/spotting-sea-turtles-in-cyprus/turtle-in-net/

漁業での混獲もウミガメの減少の大きな要因です。

特に問題だったのがメキシコ湾で盛んに行われていたエビのトロール漁です。底引き網漁とも呼ばれ、海底に沿って大きな網を船で引っ張る方法です。

ケンプヒメウミガメは小エビが豊富な海域に、多く生息していたため、漁によって網に絡まってしまい多くの個体が死んでしまいました。

このような状況を見て、「ウミガメ排除装置(TED)」が開発され、1987年から実用化されました。

これによって混獲が97%も減少したそうです。

ウミガメに関係なくトロール漁自体が、直接魚やその他の海中生物を傷付け、海底に生息する生物の環境を破壊し、海底に堆積していた汚染物を巻き上げてしまうとして問題となっています。

↑↑ウミガメ排除装置(TED)↑↑
出典:https://www.fisheries.noaa.gov/bulletin/noaa-issues-final-rule-require-turtle-excluder-device-use-all-skimmer-trawl-vessels-40

トロール漁だけでなく、マグロやメカジキを対象とした延縄漁も問題となっています。

これは多くの釣り針を海の中に漂わせる方法であり、遊泳中のウミガメがこの釣り針に引っかかってしまい、海面に戻ることができず溺死してしまいます。

混獲対策としてサークルフックと呼ばれるウミガメのかかりにくい針の使用が推奨され、針を設置する推進やエサの種類の変更が行われてきました。

その結果、ハワイを拠点とするメカジキ漁では混獲数を減少させることに成功したそうです。

人間

出典:https://inhabitat.com/mob-of-tourists-blocks-sea-turtles-from-their-nesting-ground-in-costa-rica/sea-turtles-costa-rica-tourists-1/

産卵前のウミガメはとても臆病で用心深いです。

騒音や光を避けようとするため、砂浜の近くに家やホテルがあったり、大きな道路があると母ガメの上陸の妨げとなります。

また、上述したように子ガメは光に向かって歩いていく性質があるため浜辺の近くに建物や街灯があると、海とは反対方向に進むことになります。

海にたどり着けなかった個体が生き延びていけないのは容易に想像できます。

屋久島などでは観光客が問題となることがあります。

ウミガメの産卵を見ようと夜に観光客が大勢砂浜に来ることは母ガメの上陸の妨げとなります。

フラッシュ撮影を行う人もいますが、臆病な母ガメにとっては大変ストレスです。

また、砂浜を歩くことで知らず知らずのうちに巣穴を踏み固めてしまうことがあります。

そうなると子ガメが砂から脱出することができずに死んでしまいます。

中には巣穴を掘り返してしまう人もいるそうです。

出典:https://www.seaturtlestatus.org/articles/2008/mass-turtle-poaching-a-case-study-from-southeast-asia

ウミガメの乱獲と卵の過剰な採集も大きな問題です。

ウミガメの肉や卵は食用となり、甲羅などは装飾品として売られます。べっ甲もそうですね。

ウミガメは砂浜では動きが遅いので簡単につかまえられてしまいます。

また、巣穴の位置も簡単に特定できるので卵を採るのも容易です。しかも、1つの巣穴に100個以上あるので、売る側からしたら効率的にたくさんの卵を集めることができます。

ケンプヒメウミガメはメキシコにある「ランチョ・ヌエボ」という砂浜でのみ産卵を行います。

この砂浜でも人の影響によって、1940年代後半には、一日に4万匹以上の母ガメが産卵をしに砂浜にやって来ていたそうなのですが、1980年代後半には1シーズン数百匹まで減少してしまったそうです。

幸いなことに、保護活動が始まり最近では個体数が戻ってきているそうですが。

世界にはこのような慣習が残っている地域がたくさんあります。

日本でも屋久島などでは昔、ウミガメの卵を食べていたそうですよ。

出典:https://coastalcare.org/2011/07/legalized-poaching-turtles-eggs-and-playa-ostional-costa-rica/

ウミガメの乱獲や卵の採集はほとんどの地域で違法ですが、合法的に行える地域もあります。

上の写真はコスタリカで撮られた写真です。

この国の一部では、ウミガメの卵が地域住民の貴重な収入源であったことから、レンジャーと生態学者の管理の下で卵を合法的に採集することができるそうです。

地元の人は長い年月これで生活していたのに、保護のために全て禁止するというのも身勝手な話だと思います。

問題となっているのは卵を採ることではなく、「採り過ぎていること」なので適切な管理の下で行えば問題は無いと思います。

ただ残念なことに密猟もまだ盛んに行われているそうですが…

フィブロパピロマ

出典:https://inhabitat.com/how-humans-could-be-causing-lethal-tumors-on-endangered-sea-turtles/turtle-tumours/

フィブロパピロマとはウミガメで見られる腫瘍です。

腫瘍自体は良性なのですが、大きな腫瘍が体に出来ることで遊泳、採餌、視野、浮力などに影響を与え、死に至ることがあります。

原因はウミガメヘルペスウイルス5型(Chelonid herpesvirus 5)と考えられています。

しかし、対象が絶滅危惧種なだけあって感染実験などが進んでおらず、不明な点が多く残っています。

最も発生が多いのはアオウミガメですが、他の6種でも発生が確認されています。

1930年代に初めて確認されました。その時はフロリダだけでしたが現在は流行が広がり世界中で見られます。

最近の調査でフィブリパピロマの発生がウミガメの生息している海域の、人間の生活排水や農業廃水などによる汚染に関連していることが分かってきました。

フィブロパピロマの発生がその海域が汚染されているか否かの指標となるのではないかという研究もされているようです。


母ガメが一生懸命に巣穴を掘って産卵し、子ガメはふ化したら地上まで這い上がり、命がけで海に向かいます。

海に入ってからも多くの天敵がいて、大人になれるのはごく一部です。

そして十分に成長すると、生まれた砂浜に戻ってきて新たな命を産み落とします。

ウミガメのボランティアをしている時にこの長い命がけの旅路に思いを巡らせて自然の美しさと厳しさを感じました。

しかし、残念なことに多くの問題によってこの”旅路”が妨げられています。

多くの人が行動を変えることが求められています。

この記事を読んだ方々のウミガメの生態への理解が少しでも深まり、ウミガメが直面している問題に少しでも関心が高まっていたら嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

参考資料
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