皆さんは今まで「水」について考えたことはありますか?
蛇口をひねればいつでも好きなだけ水を使うことができ、コンビニや自販機にはいつでも水があるのでのどが渇いて辛い思いをするということもほとんどないと思います。
日本に住んでいるとあまり気がつかないことですが、世界の多くの地域では深刻な水不足に悩まされています。
途上国だけでなく、アメリカなどの先進国でも起こっている問題です。
最も身近に存在する物質であり、同時にこれなしでは生きていくことができない水。
世界ではどのような問題が起こっているのでしょうか?
地球にはどれだけ水がある?
地球は「水の惑星」とも呼ばれることだけあり、多くの水が存在しています。
その量13.86億㎦。
なんとも想像しづらい数字です。
これは地球の表面を2.75kmの厚さで覆うことのできる量です。
比較のために地球上の人間を液体にして同じことをするとたった0.5μmにしかなりません。
(μm=1mmの1000分の1)
ですが、この内のどれくらいを僕たちは使っているのでしょうか。
97%もの水は海水で、2%の水は北極や南極で凍っています。
これらを差し引くと僕たちの使うことのできる水は全体の0.75%です。
とはいえ、その量は膨大で約1100万㎦と言われています。
もし、日本列島と同じ大きさのプールがあればこの量の水を入れるには3万mもの深さが必要です。
しかし、その0.75%の使える水のほとんどは地下にあり、手に入れるのが困難です。
これらをすべて考慮に入れると、人間が使える再生可能な水資源(河川・湖・沼)は地球上にある水の内たった0.01%しかないそうです。
これは13.5万㎦、13.5^17Lに相当します。
水を何に使ってる?
日本人は1日に300Lもの水を1人辺り使用しています。アメリカでは380Lにも及びます。
そんなに使っていないと思うかもしれませんが、シャワー1分で6.5L、トイレを1回流すと6L使っています。
下のグラフを見ても分かるようにお風呂とトイレで6割を占めています。
しかし、生活用水は水使用量全体の8%にしか及びません。
ではそれ以外は何に使っているのでしょうか?
22%が工業で、最も多いのが農業・畜産業で70%にも及びます。
日本だけで見た場合、年間に生活用水として148億㎥、工業用水として111億㎥、農業用水として540億㎥使っています。
(工業用水として実際は433億㎥使用されていますが、7割以上の水が再利用されているので実際に新たに河川から補給されているのが上の値です。)
これらを合計すると年間およそ800億㎥。これは琵琶湖3杯分の水量になります。
生活用水とは?
普段飲んだり、料理に使ったり、歯を磨いたり、お風呂に入る際に使う水は「家庭用水」と呼ばれ、会社、ホテル、飲食店などで使われる水を「都市活動用水」と言い、これらを合わせて生活用水と言います。
仮想水とは?
1日に300Lも水を使っていると分かりかなり驚きましたね。
しかし、この他にも僕たちは見えないところでも水を使っているのです。
例えば目の前に500mlのコーラが入っているペットボトルがあるとします。
これを飲んだ時にあなたの使った水の量は500mlではないのです。
コーラの材料に28L、そしてペットボトルを使用していることでさらに7L、合計35Lもの水を間接的に使用しています。
これと同じ原理でグラス1杯のビールは74L、コーヒー1杯130Lとなっています。
しかし、何よりも水を多く使っているのは肉です。
牛肉の場合、牛は1日に12kgのアルファルファを食べ、アルファルファ1kgを作るのに510Lもの水が必要です。
すると、ハンバーガー1個当たり、なんと1,650Lもの水を使っている計算になります。
このように輸入した農作物や、食肉を育てるのに必要な水を「仮想水」と呼びます。
日本が輸入している仮想水の量は日本国内の取水量を上回り、途上国の約12億人の量に匹敵するそうです。
日本は食料と共に多くの水も他の国に依存しています。
他国の水問題は決して他人事ではないのです。
地域によって得られる水の量は違う
世界全体を見ると全ての人に十分に水を行き渡らせるだけの量は”今は”あるようです。
しかし、降水量や人口が地域ごとに異なるため、カナダ、ニュージーランドのように十分に水がある地域と、中東の様に全く足りない地域がでてきます。
残念ながら、水資源と人口は同じように分布しているわけではないのです。
日本はどうなのでしょうか?左の表を見てください。
日本の年間降水量は世界平均を上回っていますが、1人当たりにすると世界平均を大きく下回り、水資源量も世界平均を下回っています。
日本でも水は貴重な物質なのです。
water poverty ~水貧困~
世界の人口は今や70億人にまで増えました。
しかし、その内10億人がきれいで安心して飲むことのできる飲料水を安定的に手に入れることができていません。
その内、7億人の人は1日200円以下で生活している貧しい人たちです。
しかしそんな人たちでも毎日何とかして飲み水を見つけています。
その人たちが1日に消費する水の量は5L。
一方で日本やアメリカではトイレを流すだけで毎日1人当たり70Lもの水を使用しています。
普段満足に水を手に入れることのできない人たちが飲んでいる水は僕たちが食器を洗うのに使うのもためらわれるほどに”汚い”水であり、先進国の僕たちがトイレで流している水はとても綺麗で飲むことのできる水です。
また、先の10億人を除いてさらに18億人もの人が敷地内に水のアクセスがありません。
これらの人たちは水を川などから家に運ぶ必要がありますが、これは決して楽な作業ではありません。
5人家族だとしたら1日に必要な水の量は約100L。
これは毎日100kgもの”荷物”を川から家へと運ばなないといけないということす。
しかもこの仕事を任されるのは、家庭の中で最も身分の低い若い女性たちです。
そのような地域では、水を取りに行くために学校に行けない女性たちがたくさんいます。
教育を受けられないということは、自分のやりたい仕事をするという自分の将来もなくなるということです。
これは“water poverty(水貧困)”と呼ばれています。
エチオピアのとある少女は毎日水くみに8時間もかけているらしいです。
ユニセフの推計によると世界中の女性が1日に水くみにかける時間の合計は2億時間にもなるとのことです。
1日に8時間というと僕たちが学校で勉強している時間とほぼ同じだと思います。
8時間学校で勉強できる子供がいる一方で、他の国では同じ年齢の子供が8時間その全てをただ水を取りに行くだけに費やしている…
蛇口をひねるだけで水が出てくる国に生まれたことを僕たちはありがたいことだと思わなければなりません。
安定的に水を手に入れられない人10億人と敷地内で水を手に入れることのできない人18億人、併せて28億人、つまり世界のおよそ40%もの人たちが水を手に入れるのに困難しているということになります。
WHOによると毎年180万人もの子供が、水不足、あるいは飲み水から病気をもらって亡くなっています。
この数は想像しにくいですが、1日当たり5,000人もの子供が死んでいるという計算になります。
国連は2010年に十分な水を手に入れられることを基本的な人権の1つとしました。
世界中の人が水へのアクセスを持ち、十分な量手に入れることのできる日は来るのでしょうか?
水はあげられない
アフリカで水が足りていない人たちに日本の川の水を届けることはできません。
私たちが頑張ってもその人たちを助けることはできないのです。
全ての水問題は局地的なのです。
私たちが節水をしたとしても、今飲み水を必要としている人にその水が行くことはありません。
ですが水問題は間接的に世界中に影響を与えます。
例えばA国で水不足が起きたとします。
それにより多くの農家が離農し、食料をその地域だけでは調達できなくなるとします。
そしたら、食べ物をX国から輸入しなければなりません。
A国だけだったら、X国にも余裕はあったでしょう。
しかし、B国、C国、D国も深刻な水不足で食料を輸入する必要が出てきました。
この場合X国は農地を拡大しなければならず、それに伴いさらに水を使わなければなりません。
残念なことにX国でも水不足になってしまいました…
上でも述べたように農業・畜産業には70%もの水が使われているのです。
食料を作るには大量の水が必要なのです。
水問題は世界中の人で取り組み必要があります。
大都市での水危機の例
今までの話を聞いて、
「途上国で水を手に入れるのが困難ということは知っていたし、それなら自分にはあまり関係が無い」
と思っている人がいるかもしれません。
しかし、この問題は世界のいたるところで起こっており、かなり発展した都市でも発生しているのです。
・ケープタウン
人口増加と記録的な干ばつで、2018年に水源が枯渇し水道水の供給が止まる日として”day 0″が宣言されました。
水道供給の停止が計画され、最初の水が足りなくなった大都市です。
ケープタウンの人口は4百万人。
水道水を使えなくなると、この人たち全員が町の水のステーションに並ばなければならないことになります。
政府は市民に水の使用量を1日50L以下に抑えるように要請しました。
これは平均的なアメリカ人が使う量の6分の1以下です。
トイレを流すことはできず、シャワーの使用も3分以下となり農業も大打撃を受けました。
ケープタウンはday 0によって人々や企業に節水の意識が芽生えたことで、
1日の水の使用量が2018年は2014年と比べて半分以下に低下しました。
これに加えて、大雨が降ったことで、”day 0″の危機は去りましたが、今でも深刻な水不足に悩まされています。
・バルセロナ
2008年にカタルーニャ州で18カ月にも及ぶ大規模な干ばつが発生しました。
貯水池は80%が空となり、500万人もの人が影響を受けました。
この水不足を解決するために、水を他の都市から船で運んでくるという大掛かりな作戦がとられました。
しかし、3,600万Lもの水を運べる船でも、バルセロナの人口を考えればたった1時間しか持ちません。
安定して全市民に水を配ることのできるシステムの重要さが再認識された出来事でした。
・メキシコシティ
この都市では地下水をよく利用していました。
最近では、地下水を手に入れる技術は向上し多くの水を手に入れることができるようになってきました。
地下水は帯水層(Aquifer)と呼ばれるところにあります。
メキシコシティは需要量の50%を帯水層からとっているのですが、この地域は降水量が少なく帯水層に地下水が蓄積されるまでに何万年もかかります。
つまり、入ってくる量よりも出ていく水の量が多いため、30~40年後には枯渇すると考えられています。
地下水を取ることは水不足になること以外にも悪影響があります。
それは地盤沈下です。
場所によっては毎年20cmも下がっているところがあるそうです。
これが水道管の破損につながりさらなる水不足を招いています。
メキシコシティでは1年以上蛇口から水が出ていない地域もあるそうです。
日本での渇水
他の国だけでなく日本でも水不足は発生しています。
日本では水不足は「渇水」と呼ばれています。
1939年の琵琶湖大渇水、1964年の東京オリンピック渇水、1967年の長崎渇水、1973年の高松渇水、1978年の福岡渇水が大規模な渇水として知られています。
1番最近のものが1994年の「列島渇水」です。
この年は春から降水量が少なく、梅雨でも例年の半分以下でした。
加えて西日本から関東地方にかけて観測開始以来の最高気温となりました。
これにより、九州北部、瀬戸内海沿岸、東海地方で深刻な水不足となり、時間指定断水などの処置がとられました。
影響は1660万人におよび、農業被害は1409億円に及びました。
日本は世界と比べても河川の勾配が急で長さも短く、水は短時間で海へと流れてしまいます。
また、森は「緑のダム」として多くの水を地中に蓄えていますが、森林破壊によってそれも失われつつあります。
降水量は多いものの、安定した水資源として確保するのは難しいのです。
水紛争
今まで見てきたように水は限られた資源で、十分に手に入れることのできない人が大勢います。
このような状況では水の「奪い合い」が起こることが容易に予想できます。
上の図は世界での水紛争の発生を表しています。
シリアの2006年に内戦も水不足が引き金となったと考えている人もいます。
対立は国vs国だけにとどまりません。
メキシコのメヒカリ市はコロナビールの会社と契約し、2017年に醸造所を作ることになりました。
会社は地域に多くの正規雇用を生み出し、メヒカリ市はその代わりに大量の水供給を約束しました。
しかし、メヒカリ市も水不足に悩んでいました。
川は干上がり、多くの農家が十分な水を使えていませんでした。
追い打ちをかけるように、2018年に政府は企業が水を手に入れやすいような法律を作りました。
これに対し市民はデモを起こしました。
水が無ければ家計を維持できなくなるうえに、生死にも直結します。
この先水の使用量が増えていけば、文字通り”死に物狂い”で水を奪い合うのは避けられないかもしれません。
この先どうなるか
NASAの調査ではインドの北部でこの帯水層の110兆Lの水がたった10年で無くなったそうです。
ここ100年で水の消費量は7倍になり、今後も人口の増加と共に増えていきます。
地球温暖化のせいで雨や雪も不規則となり頼れなくなってきています。
2050年までに世界の人口は、今よりおよそ25億人増え、97億人になる見込みです。
その場合、水不足の人は増えますし、それと同時に、私たちのお腹を満たすために農業や畜産が今よりも拡大し、今以上に水を使う必要が出てきます。
ボトル水について
ここで少し話題を変えてみます。
健康志向の人が増えて近年はペットボトルに入った天然水を飲んでいる人を良く見かけます。
1年間に世界で3,800億Lものボトル水が飲まれており、3.5兆円も僕たちは払っています。
しかし、この水がどこから来ているか考えたことのある人はいるでしょうか?
・天然水
天然水は帯水層の地下水からとられています。
アメリカでは、1996年から天然水は実際に湧水を使っていなくても、地下水がどこかで湧水とつながっていれば天然水と記載できるようになりました。
アメリカのミシガン州では380万Lもの地下水が毎日採水されているそうです。
蓄積するのに長い年月がかかる地下水を使うことは、自然環境にももちろん影響します。
ミシガンでは川の水位が下がっているようです。
私たちが天然水を飲むたびに川や湖の水位は下がっていっているのです。
・精製水
日本ではあまりなじみがないかもしれません。
精製水(purified water)として、ペプシの「Aquafina」コカ・コーラの「Dasani」が有名で、アメリカのボトル水の20%を占めています。
しかし、それらはただの水道水です。
すでにきれいで飲むことができる水道水をろ過し、様々な物質を取り除き、少しミネラルを加えているだけなのです。
・途上国でのボトル水
きれいな水を手に入れることのできない途上国でボトル水業界は売り上げを伸ばしています。
ナイジェリアは他のアフリカの国々と比べて多くの水を持っているが、水危機に困っています。
Lagosはナイジェリアの2,100万人が住む大きな町ですが、1,900万人もの人が水道水を手に入れることができていません。
行政からの水道水が1990年までは供給されていましたが、人口が増加し水の供給が止まってしまったそうです。
個人で地下から水をくみ上げた人がそれらを売っていますが、ゴミ山からの有害物質が地下水を汚染し健康被害がでているため、飲むひとはあまり多くないようです。
このような国にボトル水業界が参入し、地元の人から絶大な信頼を得るようになります。
安心して飲める水はこれ以外にありませんからね。
ナイジェリアだけで1年のボトル水の売り上げは60億円にものぼるそうです。
問題は他にもあります。
水を運ぶのには容器が必要です。それらのほとんどはプラスチックに入っています。
Legosではゴミの内たった10%しかリサイクルされておらず、残りは道路のわきに積み上げられたり、そこら辺に捨てられています。
これらは海に流れていき、海洋汚染の原因にもなっています。
政府が水道のインフラを整えないために、企業がこれらの国で莫大な利益をあげています。
水は誰のものなのでしょうか?
もちろん誰のものでもありません。
それをある場所から取ってきて、ただペットボトルに入れるだけで”自分のもの”として売り、莫大な利益を上げていることを皆さんは不思議に思わないでしょうか?
他の国の空気が袋に入れられて「500ml100円」で売られていたら買う人はいるでしょうか?
水と空気では少し話が違う気もしますが、行われていることはあまり大差がないと思います。
水を大切に使っていますか?
蛇口をひねればいつでも、好きなだけ水が出てきて水道代もそんなに高くない。
私たちは水を大切に使っていますでしょうか?
おそらくほとんどの人はそのように思っていないでしょう。
それは日本だけの話ではありません。
1日に2百万トンの水が下水、農業、工業から捨てられているとされています。
アメリカでは6分の1の水道水が漏れ出しているそうです。
これは6日に1日の割合で水をただ捨てている日があることと同じです。
メキシコシティではなんと水道水の42%がもれてしまっています。
水のインフラ整備に十分なお金がかけられていないことがうかがえるかと思います。
しかし、よく考えてみればボトル水に3.5兆円も払っているのに、上水道を整えるのに使えるお金が無いはずがありません。
普段からできること
水の大切さを分かっていただけましたでしょうか?
水の使用量を減らすためには1人1人が意識して水を減らすことが重要です。
僕たちができることとして以下のような例が挙げられます。
- 洗濯の回数を減らす
- 皿洗い、歯磨きの際などに水を流しっぱなしにしない
- シャワーを流しっぱなしにしない
- トイレの大小レバーを使い分ける
- お風呂の残り湯を洗濯や清掃に利用する
- 仮想水の少ない食材を食べる
限りある水を大切に使うようにしましょう。
最後に
このまま人口が増えていけば、お金持ちだけがきれいな水を飲めて、お金のない人たちは汚染水しか使うことのできない、という世界になってしまうかもしれません。
水は誰のものでもありません。
水は人間だけのものでも無論ありません。
今回は触れませんでしたが、動植物も水を使っています。
森や川から水が減っていき生態系にも影響は確実に出ていると考えられます。
一部の人間だけがきれいな水を使える世界になんてなって欲しくないです。
今回の記事を読んで、水が貴重でかけがえのない存在であることを再認識していただけたなら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/index.html
https://www.suntory.co.jp/eco/teigen/knowledge/
https://jp.toto.com/greenchallenge/value/intro.htm
https://www.unicef.or.jp/special/17sum/
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201507/4.html
Netflix Explained “The World’s Water Crisis”
Rotten “Troubled Water”
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