ベルグマンの法則と地球温暖化 〜動物が小さくなっている!?〜

最近は環境問題に対する世間の関心が非常に高まっていると感じています。ニュースなどでもよくとりあげられていますね。

環境問題には、土壌汚染、海洋汚染などいろいろな種類がありますが、最も取り沙汰されているのが地球温暖化ではないでしょうか。

実は最近、世界で動物が小さくなっているとの報告があがっているのですが、この原因が地球温暖化ではないかと考えられているのです。

気温の上昇と動物の体のサイズにどのような関係があるのでしょうか?

ベルグマンの法則

本題に入る前に前提知識を頭に入れておかなければなりません。

それは「ベルグマンの法則」です。

高校で生物選択をした人であれば聞いたことがあると思います。

この法則を一言で説明すると以下の通りです。

恒温動物では、同じ種でも、寒冷な地域に住む種ほど体のサイズが大きくなること。

このメカニズムは動物の体温調節が深く関係しています。

体温は代謝や運動で生み出されるので、熱の産生は「体積」に相関していると考えることができます。

一方で、体温が失われるのは体表からです。つまり熱の損失は「表面積」に相関していると考えられます。

動物の体積は体長の3乗に、表面積は2乗に比例します。

このことから、体のサイズが大きいほど、体積あたりの表面積が小さくなり、失われる熱が少なくなることがわかります

少し難しいと感じた方は、下の画像をご覧ください。

一辺が1cm、2cm、3cmの立方体を動物に見立てて説明します。

体長が大きくなればなるほど、表面積÷体積の値が小さくなっていることがわかるかと思います。

↑立方体を動物だと思ってください↑

みなさんも寒いところに行くと、体を小さくすると思います。これも表面積を小さくして、体から熱が逃げていくのを防ごうとしているからです。

寒いところでは体が大きくなるということの原理を理解していただけたかと思います。

このことから予想できるように、温暖な地域では逆に動物の体は小さくなりますが、これは過度な体温上昇を防ぐために体から効率良く熱を放出するためです。

銭湯から上がった人が手足を放り投げて扇風機に当たっているのを見ると想像しやすいですね。

日本での最も身近な例がシカだと思います。

ニホンジカには7つの亜種がありますが、北に生息するものほど体が大きくなっています。

北海道に生息するエゾシカと、屋久島に生息するヤクジカを見比べればその違いは一目瞭然ですね。

シカの他にはクマが良い例だと思います。

すこし説明が長くなりましたが、これが「ベルグマンの法則」です。

地球温暖化と体格の小型化

ベルグマンの法則によると、温暖な地域に住んでいる動物では体のサイズが小さくなるということでした。

つまり地球温暖化により気温が上昇すると、それに伴って動物が小型化しているのではないか、というのが今回ご紹介する仮説です。

2つの研究をご紹介します。

1つ目は、52種の北米の渡鳥を対象として、1978年から2016年までの夏季の気温と体のサイズの変化を調べたものです。

その結果、気温の上昇に応じて体が小さくなっていることがわかりました

1978年から2016年の間で、体のサイズが2.6%小さくなり、ふ蹠と呼ばれる踵から趾の付け根までの部分の長さが2.4%短縮していました。

この実験では、体のサイズとふ蹠に加えて翼長も調べられたのですが、面白いことに翼は長くなっていることがわかりました。

体が小さくなり、脚も短くなっているのになぜ翼だけが大きくなったのでしょうか?

翼長と渡りの長さに正の比例関係があることが明らかになっています。つまり、渡りの長さが長いほど翼は長くなるのです。

今回の研究の筆者たちは、地球温暖化により越冬地がより北に移動することで、渡りの距離が長くなり、それに伴って翼も長くなったと考えました。

説得力のある考察ですよね。

2つ目の研究は、オーストラリア南東に生息する8種類のスズメ目を対象に、過去100年間の体格の変化を調べたものです。

この実験では翼長を体格の基準としており8種のうち4種で明らかな減少(1.8%から3.6%)が見られました

1つ目の実験で見られた、翼長の増加が見られなかったのはこれらの種が渡りを行わない種であるからと考えられます。

また、この実験では体のサイズと緯度の関係についても調べています。

オーストラリアは南半球に位置するので、北に行くほど暑く、南に行くほど寒くなります。

ベルグマンの法則に従って緯度によって体のサイズが異なっている種では、南のほうに住んでいる種が、少し北の方に住んでいた種と同じ体のサイズを示すことがわかりました。

つまり、気温が高くなったので寒いところに住んでいた種のサイズが小さくなり、以前まで少し暖かい地域に住んでいた種と同じ体のサイズを示すようになったということです。

この「南の方」と「北の方」がどれほど離れているかというと、緯度にしておよそ7°

あまり大きな違いはなさそうだと感じるかもしれませんが、日本で例えると長崎県(北緯33°)と秋田県・岩手県(北緯40°)ほど違うのです。

100年間で緯度7°分も生活環境が変化してしまったのは驚きでしかありません。

ベルグマンの法則だけで説明できるのか?

気温の上昇によって体のサイズが小さくなっている可能性が示唆されました。

海棲哺乳類など、他の動物で調べられた同様の報告も多くあります。

しかし、この体格の変化は本当にベルグマンの法則のみによって説明できる現象なのでしょうか?

上で紹介した研究の筆者たちは原因は他にもあると考えます。

それは、エサ不足、水不足です。

気温が上昇すれば生息地となっている場所の植生も変化しますでしょうし、地球温暖化により降水量にも変化があればもちろん摂取できる水の量も変化します。

このようにして長期的なエサ不足、水不足に陥れば、生きていくのに必要なエネルギーを少なくするために生物が小型化する方向に進む可能性があります。

しかし、残念ながらこれについての研究がほとんどされておらず、議論の余地が多くあるようです。

遺伝子に変化はあるのか

このように長期期間にわたって体のサイズの減少が生物に見られた場合、自然選択がかかり遺伝子に変化が生じているかもしれないと研究者たちは考えました。

自然選択とは、生存に有利な特徴を持つ個体が生き残り子孫を残すことで、その特徴が集団に広がっていくことです。

つまり、地球温暖化により体が小さい個体が生存に有利であれば、そのような遺伝子が多く後世に残っていき、集団全体の体が小さくなっていくということです。

ニュージーランドのアカハシギンカモメの体格を47年間にわたり比較した研究がありました。

この研究によると、確かにサイズは小さくなっていました。

しかし、自然選択の証拠はなく遺伝子にも変化が見られませんでした

このことから、地球温暖化により引き起こされている体格の小型化は遺伝子の変化によるものではなく、表現型の可塑性というエピジェネティックな変化であることがわかりました。

生存率が低下しており生息環境の悪化も示唆されたことから、体格の変化は上ですでに述べたように環境の変化が原因で引き起こされたとも考えられます。

とはいえ、原因が遺伝子の変化による可能性も完全には否定できないそうですが。

表現型の可塑性とは?

生き物が身体の特徴を変えるときは、一般的には遺伝子を変化させる必要がありますが、”遺伝子を変化させることなく”環境条件に応じて、その表現型を変えることを「表現型の可塑性」と言います。


すこし釈然としないところが多かったですが、今回の記事の内容をまとめると以下のようになります。

世界中で動物の体が小さくなっていることは確かだが、その原因は明らかになっていない

やっぱりすっきりしないですね笑

結局のところ明確な理由は分からないそうですが、今回読んだ論文の著者の1人がとても心に残ることを書いていました。

動物の小型化は私たち人間への警告でもあるかもしれない。

地球温暖化による気温の上昇も、それに伴う生息地の変化も動植物に大きな影響があるのは間違いないことです。

私たちがこの問題について考えるときは常に、人間のことしか考えていないように思えます。

しかし、人間以外の生き物もたくさん同じ地球の上に住んでいるのです。

他の生き物のことも考えられるようになれば、地球に対してもう少し優しくなれるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

参考文献

Brian C. Weeks, David E. Willard, Marketa Zimova, Aspen A. Ellis, Max L. Witynski, Mary Hennen and Benjamin M. Winger. Shared morphological consequences of global warming in
North American migratory birds. Ecology Letters, 23: 316–325(2020)

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Delgado, M.d.M., Bettega, C., Martens, J. et al. Ecotypic changes of alpine birds to climate change. Sci Rep 9, 16082 (2019)

Céline Teplitsky, James A. Mills, Jussi S. Alho, John W. Yarrall, Juha Merilä. Bergmann’s rule and climate change revisited: Disentangling environmental and genetic responses in a wild bird population. Proceedings of the National Academy of Sciences Sep 2008, 105 (36) 13492-13496;

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