帯広畜産大学で獣医学を学んだ6年間 その2

4年生 〜衛生地獄〜

総合研究棟Ⅳ号館

留学から帰ってきて実家で数日過ごした後に大学に戻りました。
留学後も寮に住むことになっており、荷物を物置に置かせていただいていたので、引越しなどがなくて非常に楽でした。

荷物を段ボールから出して配置し、4月からまた授業があるのかと憂鬱になっていたとき、大学から授業の開始が1ヶ月遅れ、5月始まりになるとの連絡が

この年の1月ごろからコロナが日本にも侵入してきており、全国の学校で同様の対応が見られました。

突如1ヶ月間も春休みが伸びたので学生側からしたらラッキーです。ステイホームの時節柄でしたが、寮に住んでいたため友人達と毎日遊ぶことができましたし、農家さんでのバイトにもたくさん参加しました。

5月になるとすぐにGWがあるので結局授業が始まったのは5/11からでした。

授業が始まったと思ったら、全てオンラインでの配信となりました。パソコン上で授業を受けるということは今までになかったことで、どこにいても授業が受けられるというの新鮮なことでした。ですが、対面と比べるとどうしても集中力が下がりました。先生に直接見られているわけでなはいですし(画面OFFで授業する先生も多くいらっしゃいます)、教室ではなく自分の部屋などにいるのでどうしても気が散ってしまいます。

また、5月始まりになったせいで授業日数が足りず、土曜日にも授業がありました

とにかく、留学から帰ってきた後の大学への復帰はかなり不規則なものとなってしまいました。

さて、授業の話に移りましょう。

人口動態、出世率、死亡率や下水処理、廃棄物の分類などを学ぶ。一見すると獣医とは関係なさそうだが、公衆衛生分野で働いている獣医師も多くいる。

主に食中毒について学ぶ。細菌性食中毒、ウイルス性食中毒やキノコや魚などの自然毒による食中毒も範囲である。この授業での知識を仕事で使うことは少ないが、実生活において結構役立つのでしっかりと勉強しておいて損はなかったと思う。食中毒には気をつけよう!!

化学物質による人や動物への毒性発現の機序を学ぶ。呼吸器毒性、循環器毒性、肝毒性など臓器毎の毒性物質について学ぶ。暗記する量が半端じゃなく、おそらく一番勉強した科目。

人獣共通感染症はWHOによると「脊椎動物とヒトとの間で自然に移行する全ての病気または感染」と定義されている。有名なものでは狂犬病、インフルエンザ、ペスト、結核、エキノコックスなど。これらの感染症について、その原因、疫学、症状、診断、治療、予防法について学ぶ。人に感染する病原体のうちおよそ6割が人獣共通感染症の病原体とされており、新興国などにおいては非常に深刻な問題となっている。

農場は牛の健康状態によって生産性が大きく左右される。牛の疾病やその生産性との関連を学び、飼養管理改善などの知見を得て、牛群管理について学ぶ。乳房炎、蹄病などが生産性を下げる疾病の例として有名です。

外科学の基礎として、炎症、損傷、ショックの分類などの基礎的なものから、実際の手術時に必要となる止血法、縫合法、麻酔法などの概念を学ぶ。

犬猫における循環器疾患、呼吸器疾患、消化器疾患、泌尿器疾患、皮膚疾患、内分泌疾患、血液疾患などの主要な症状、臨床学的所見、治療法について学ぶ。「これぞ動物のお医者さん!」って感じ。

畜大の4年前期と言ったら、公衆衛生学と食品衛生学でしょう。
それぞれ座学と実習があったため、これらだけで週の大半の時間を占めていました。加えて、先生がパワフルな方で容赦なく試験で学生を落としていたので、6年間で一番の鬼門でした。

肝心の勉強内容についてです。

まず公衆衛生学のシラバスの授業計画を見てみましょう。

公衆衛生学のシラバス

1. 公衆衛生の考え方:公衆衛生の概要、目的、獣医公衆衛生の役割、公衆衛生の歴史
2. 国民衛生の動向:人口静態、人口動態、生命表、平均寿命、国民の疾病と障害の状況
3. 疫学の目的と方法:疫学の概要、疾病および健康障害の発生要因、疫学の方法論、
4. 感染症の疫学と予防:感染と発症、感染症の発生要因、流行現象、感染症の予防
5. 生活環境:大気環境、水環境、土壌環境、廃棄物
6. 動物との共生と公衆衛生:人と動物の共生と相互作用、公衆衛生上の問題点
7. 公衆衛生行政の概要
8. 公衆衛生行政に関わる法制度:食の安全確保、家畜伝染病予防法, 感染症法、狂犬病予防法
(参照:「帯広畜産大学 シラバス」https://gkm02.obihiro.ac.jp/Portal/Public/Syllabus/DetailMain.aspx?lct_year=2020&lct_cd=51152010&je_cd=1)

これを見ると、”動物のお医者さん感”が全くしませんね。
人口はペットの頭数ではなく、本当に人間の数です。
下水処理、廃棄物の分類なども勉強していたため、テスト勉強の時は自分が獣医学部に入ったことを忘れてしまうこともしばしばありました笑

次に食品衛生学についてです。
これは科目名をみても想像できるように、食中毒などについて勉強します。

細菌性ではカンピロバクターやサルモネラなど、ウイルス性ではノロウイルスが有名でしょうか。

このような食中毒の原因や症状、どれくらい発生しているかなどの疫学について勉強します。

また食中毒は細菌、ウイルスだけではありません。

植物やキノコに加え、魚などの自然毒による食中毒も勉強します。

食品の衛生管理についても学ぶので、HACCPや食品の安全性の評価方法なども勉強しました。

公衆衛生学と食品衛生学は6年間の中で最も”動物のお医者さん感”が無い授業でした。まさか、獣医学部で下水処理の勉強するなんて想像もできませんでした。

しかし、こういう分野で働いていらっしゃる獣医の方々もいるので、獣医の守備範囲って本当に広いな〜と再認識するきっかけにもなりました。

8月は期末テストが目白押しでしたが、6年間の中で最も勉強したかもしれません。

公衆衛生学と食品衛生学のテストは既に述べたように厳しかったですが、人獣共通感染症学と応用毒性学のテストもとても難しく、多くの時間を勉強に割きました。

テストが連日続くこともあれば、最終日は1日に2個もあって寿命削りながら勉強していました。一番ひどい時は3日間の睡眠時間の合計が9時間の時もありました。深夜2時まで勉強し翌朝6時に起きて勉強再開、なんてことを繰り返していたので心も身体もボロボロでしたね、、

↑食品衛生学のテスト勉強中の机↑

さらに、4年前期から学年が一つ下がったため、今まで一緒に勉強していた同級生がいませんでした。また完全リモート授業であったため、新たな学年での知り合いも増えず、相談できる相手がいない中での試験期間だったのでなおのこと大変でした。

記憶が正しければ、応用毒性学の試験では28人、人獣共通感染症でも半分くらいの学生が落ちていました

そのようなジェノサイドがあったにも関わらず、屍になりながら勉強してたら幸運にも全ての試験を一発で合格することができ、後ろめたさを感じることなく夏休みを迎えました。

例年は実習や帰省で道外に出ることが多かったのですが、コロナのせいでどちらも叶わず、泣く泣く帯広に籠ることにしました。

その分、農家バイトにたくさん入ることができ、お金はたまりましたが笑

↑農家バイトの休憩時間の様子↑

あとは、コロナ禍だったので以前よりも外に出かけることが多かったです。

僕は野生動物が好きなので、鳥を見に山や川へ行ったりしていたのですが、釣り好きな友達と出かけたこともありました。

↑この時はヤマセミを見ることができて嬉しかったです↑

4年後期に移ります。

伴侶動物と産業動物における臨床検査、処置、診断などについて学ぶ。今までの実習は実験室でピペットなどを用いるものが多かったですが、ようやくここら辺から実際に動物を用いた実習が始まっていく。

腫瘍の診断や細胞診、画像検査とともに、外科療法、化学療法、放射線療法などの治療法を学ぶ。

筋肉、骨、靭帯などの運動器の疾病について学ぶ。前十字靭帯断裂は犬でも多く、国試にも頻出です。他に国試的に大切なのは椎間板ヘルニア、股関節脱臼、膝蓋骨脱臼とか。

身体の各臓器の外科学疾患について病態、症状、診断などに加え、術式や術後管理について学ぶ。

手洗い法、術衣の装着などの基礎的なものから始まり、結紮法、法合法、麻酔法について学ぶ。外固定や内固定の骨折の修復についても教わるが授業の時間も限られているので初歩的なもののみ。

生殖周期、配偶子の形成と受精、妊娠の成立について学ぶ。一番重要なのは性ホルモンの周期や働きかな。

動物種毎の繁殖周期の特徴、妊娠診断、妊娠管理、産褥期の管理について学ぶ。

4年後期は臨床系の授業と実習が多かったです。

内科学と外科学の授業では動物の具体的な病気について一つずつ勉強していきます。ようやく動物の病気や怪我について勉強することができ嬉しかったですね。

内科学実習では、保定、採血、身体検査などの手技やグループに分かれて問診の練習を行いました。以前は本物の犬を用いて行っていたのですが、最近はぬいぐるみや模型を使わなければならないそうで、学生としてはかなり物足りないと感じました。

小動物以外に、牛馬などの大動物でも、身体検査、採血、注射、採尿などを行いました。牛は大学の農場で飼われているものを実習に使用することができたので、本物の動物を用いてこれらの手技を学習することができたので大変勉強になりました

他大の獣医学生と話すと農場がキャンパスの近くにないことが多いそうです。(特に関東近辺)その点、畜大は大学の敷地内に自転車で10分とかからない距離に農場があるため非常に恵まれていると思いました。

外科学実習では、手術器具の説明、無菌操作(手術用ガウンと手袋の正しい装着)、消毒方法などの基礎的な事項から、縫合、模型を用いた去勢・避妊手術の練習、内固定、外固定、包帯法などの実際の診療でも行われている手技について学びました。どれも最低限のことしか勉強しませんでしたが、臨床の一端を経験することができて4年後期にしてようやく獣医学部に入ったことを実感することができました。

今までにも述べていることですが、「獣医=動物のお医者さん」と考えていると、途中まで獣医学部の授業は退屈に感じるかもしれませんね

繁殖学もこの時期から始まりますが獣医領域において非常に重要な科目です。

畜産業では肉や乳製品の安定な供給のために、継続して家畜を産み続けなければなりません。

特に乳牛では子牛を産まないと乳が出てこないので、適切な繁殖管理は欠かせないです。

大動物の臨床獣医師は病気や怪我を治すことも無論ありますが、家畜の繁殖管理も大切な仕事の一つ。それを専門としている獣医さんも大勢います。

繁殖学生理学総論では家畜の生殖の仕組み(生殖周期、性ホルモン、妊娠など)について詳しく勉強しました。性ホルモンは種類が多く、互いに影響を及ぼし合っているので覚えるのが大変でした。自分の勉強も兼ねて性ホルモンについて過去に記事にしたものがあるので気になる方は下のリンクからご覧になってください。

各論では発情の発見方法、人工授精、妊娠診断法などより実践的なことを勉強しました。

【図解】牛の発情周期とホルモンについて
↑繁殖生理学総論のまとめノート

4年後期での一大イベントは研究室配属です。

時期は大学によって異なりますが、畜大では4年の前期から研究室見学やゼミ見学が始まります。そして研究室一覧が貼ってあるコルクボードに自分の名前が書かれたピンを刺し、現時点でどこに行きたいのかを示します。

研究室には定員があるため、他の学生の様子を見て最終的な志望を決めます。人気な研究室は定員オーバーするので、年によってはかなり心理戦。

最終的に決定するのは10月下旬ごろ。

定員内であれば志望した研究室にそのまま入れますが、定員を超えていた場合は1年から4年前期までのGPA(成績)によって配属が決まります。

畜大の研究室一覧は以下のリンクからどうぞ!!

ゼミとは?

大学によって呼び方は違うかもしれません。「ゼミ=研究室」で呼ばれることもあるみたいですね。ですが、畜大におけるゼミはジャーナルクラブ(輪講)を指します。毎週学生が最新の論文を読んできて、パワポに概要をまとめ、他の研究室のメンバーに発表します。論文は大半が英語ですし、留学生がいる研究室では英語でスライドを作る必要があるので、結構大変です。他には、自分の研究の進捗を発表することもありますよ!

大切なことを伝え忘れてました。

畜大は北大と共同獣医学課程であるため、北大の研究室にも配属することができます

小動物分野は北大の方が圧倒的にレベルが高いですし、北大を諦めたり、受験に失敗して畜大にくる学生も少なからずいるため、北大の研究室を志望する人は多いです。

しかしこれにも定員があり4名と決まっています。

北大を目指す人は成績優秀な人が多いためこの争いはかなり熾烈です。肌感覚では皆さんのGPAは少なくとも3.5ぐらいあって、4.0近い人もいます。

あとは心理戦も結構シビアで、1年生の時から周囲に北大に行きたいことをアピールする人もいるようです、、

学年によっては4年の研究室配属で結構ギクシャクすることもあるみたいですね、、

僕も所属する研究室を考えなければなりません。

かねてから野生動物の保全などに興味があったのですが、ドンピシャな研究室は残念ながら畜大には無く、、

そんな時、ウイルス学研究室において鳥インフルエンザの研究ができると聞きました。野鳥の保全に関連して鳥フルにも関心があったのでこれは面白そうだと思いました。

さらに、研究室には大勢の留学生が所属していると聞き、留学から帰ってきてから英語を使う機会がめっきり減ってしまっていたので外国人と話せる機会がたくさんあるのではないかと考えました。

以上のような理由でウイルス学研究室を第一志望とし、幸運にも入らせていただくことができました

4年生の後期はまだ授業があったため、本格的な研究室活動は始まりませんでしたが、ウイルス学において基礎的な実験などを教えていただきました。他には、ラボ当番をしたりやゼミに参加するようになりました。

例年であれば4年生の歓迎会があったのですが、コロナのせいで開催されず悲しかったです、、

予想していたように、研究室の留学生と話す機会が増え、さらに同じ建物内に他の研究室の留学生も大勢いたので、知り合いが増えました。英語が話せる日本人学生が少ないので、色々なサポート(役所から来た手紙を訳してあげたり、携帯電話を契約したりなど)をさせていただくようになりました。

また、ウイルス学研究室は総合研究棟Ⅳ号館にあるのですが、これが畜大内でも一番おしゃれでキレイな建物なのです!実験したくないな〜と思っても、この建物にいるだけでちょっとだけ幸せになれます。この建物にいられるだけでもウイルス研に入った価値があったと思います(??)

建設会社のHPに写真や説明があったのでぜひご覧ください。

そういえば帯広の冬の様子をお伝えするのを忘れていました。

百聞は一見に如かずということで写真を何枚かご覧いただきましょう。

最後の写真は自分の車が雪に埋まってしまった画像です笑

北海道の中では降雪量はそこまで多くない地域らしいのですが、年に数回ドカっと積もることがあります。

除雪は大変ですし、2車線の道路が1車線になったり、視界が悪くなったり、滑ったりと車を持っていると何かと大変です。

ですが僕は辺り一面が雪で真っ白になる光景はきれいなので結構好きです。

あとは気温もとても低くなります。マイナス30度になることもあるんです。

どれくらい寒いかというと、鼻呼吸すると鼻の中が凍ったり、まつ毛とかが凍って目が開きづらくなったりします。髪をちゃんと乾かさないと余裕で凍ります。

しかも帯広は夏も暑く、30度後半行くこともあるので、夏と冬の温度差が60度ぐらいあります。

試される大地とはこのことかと1年生の時は思っていましたが、長年住んでいると意外と慣れてきます。


3、4年生は6年間の中でも一番勉強が忙しかった2年間でした。

僕の場合はその間で1年間留学していたので、この3年間がとても中身が濃かったです。

4年生は専門的な科目や実習も増えてきて、少しずつ獣医になる実感が湧いてきました。

さてvol2もこれで終わりです。次のvol3では畜大の5、6年生の大学生活について書きます!

最後まで読んでいただきありがとうございました!!

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