突然ですが皆さん毎日お肉は食べますか?
おそらく普通に生活していれば、肉を食べない日はほとんど無いと思います。
焼肉はとても人気ですし、これから夏が始まりますがBBQをする人も多くいると思います。
ですが、肉を食べることで私たちは知らないうちに、森林破壊や温室効果ガスの産生などを助長しているのです。
今回の記事では、食肉の現状と未来、そして環境にどれほどの影響を与えているのかについて書いていきたいと思います。
なぜ人間は肉を食べるのか?
そもそも私たちはなぜ肉を食べるのでしょうか?
肉には多くの栄養が含まれています。
タンパク質、脂肪、ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンB12、亜鉛等々…
その中でもヘム鉄は植物由来食品から吸収することはできず、その上非ヘム鉄と比べて吸収率がとてもいいのです。
このヘム鉄を摂取できるようになったことが、腸が短くなり、脳が大きくなるというような、初期の類人猿から現生人類への身体の変化を起こしたとも言われています。
人間は狩猟を行っていた時代から肉を食べていました。
そしておよそ1万年前に大きな変化が訪れます。
家畜化です。
これにより人間は以前より簡単に肉を手に入れることができるようになり、さらに繁栄していきます。
人口がこれほどまでに繁栄した要因の1つに食肉も関係していると思っています。
このように人類の進化の歴史は肉と共にあったと言っても過言ではありません。
「なぜ人間は肉を食べるのか?」
と聞かれたならば、
「人間は肉のおかげで進化してきたので、おいしく感じるように遺伝子に組み込まれているから。」
と回答しても間違っていないと思います。
食肉の現状
毎秒世界で2,400匹もの家畜が殺されています。年間では約700億匹というものすごい数です。
2018年のデータではその内訳は上のようになっています。
ニワトリの数がいかに多いか分かるかと思います。
僕の大学では3年生の時に、鶏肉の処理・加工を行う工場の見学があるのですが、そこでは1日に56,000羽ものニワトリが処理されているとのことでした。
その時はその数にとても驚きましたが、世界規模で見ると想像することも難しい数になってきますね。
次は量についてです。
肉の生産量は年間約3億5千万トン。
これを世界の人口で割ると、1人当たり毎年43kgもの肉を食べている計算になります。
もちろん地域によって食肉の文化に差はあるので、アメリカやオーストラリアのように平均100kgを超える国もあれば、インドの様に5kgの国もあります。
ちなみに日本では、1960年には1人当たりの食肉(牛肉・豚肉・鶏肉)消費量はわずか3kgでしたが、2016年には10倍の31.4kgとなりました。
過去50年間で、人口は2倍に肉の消費量は4倍となりました。
つまり1人当たりの肉の消費量は増加しています。
豊かになるにつれて肉の消費量が増えていっているのです。
先進国では肉の消費量は横ばいか、多少の増加傾向ですが、現在経済成長が目まぐるしい新興国(中国、ブラジル等)では、急激に増加しています。
人口はこれからも増加し続けるので、それに伴って肉の消費量も増加し2050年までに年間消費量は4億5千万トンになると予想されています。
食肉の何が問題なのか?
肉の消費量が増加していることをお分かりいただけたと思います。
それでは何が問題なのでしょうか?
①温室効果ガスの排出
家畜と温室効果ガスに大きな関連があるとは知っている人は少ないと思います。
これは特に牛で問題となっています。
牛は体内で微生物によって植物性の繊維を分解しているのですが、その時にメタンガスが発生します。
このガスが、口や肛門から外に排出されます。
その量はなんと1日に160~320L。
現在地球上にはおよそ15億頭の牛が飼育されているので、1日に大気中に放出されるメタンガスの量は膨大です。
しかも、メタンガスはCO2と比較して28倍もの温室効果があるそうです。
ウシの次には羊でガスの排出量が多く、その他の畜産業でも排出されています。
これらを合計すると、畜産業から排出される温室効果ガスは、人間が排出する全体の18%も占めます。
これは自動車、船、飛行機などの輸送で排出される量の合計より多いです。
②森林破壊の原因に
地球上で陸地が占める割合はおよそ30%です。
その内の70%に人間が住むことができるそうです。
しかし、実際に僕たちが生活しているのはその内の1%で、居住可能な土地の半分を農地に使っており、その70%が畜産に使われています。
こんなにも多くの土地を畜産に利用しているのにも関わらず、カロリー供給量は全体の18%です。
現在、農地として利用されている土地は元々は森林でした。
しかし、肉の消費量が増えるにつれて新たに農地が必要となり、どんどん伐採していったのです。
最近は特にブラジルやボリビアといった南米でこの傾向が強いです。
昨年にアマゾンで大規模な火災があったのは記憶にも新しいと思います。
あの火災は新たに農地を作るために人間が意図的に火を付けたために起こりました。
森林破壊が動物の絶滅に拍車をかけ、地球温暖化の大きな原因となっていることは多くの人が知っていると思いますが、感染症という面からも大きな問題を抱えています。
森林破壊が進むと、今まで野生動物が住んでいたところに人間が進出することになるので、人と野生動物の距離が近くなります。
野生動物は様々な病気や未知のウイルスなどを持っているので、それが人間に移り、人間の間で感染が広まります。
実際、人間の感染症の7割近くが、人と動物の間で感染が成立する「人獣共通感染症」です。
エボラ出血熱や狂犬病は人獣共通感染症ですし、今回のCOVID-19も動物から人に伝播したと考えられています。
③多くの資源が使われている
特に水が多く使用されています。
1kgの牛肉を作るのに必要な水の量は15,000Lです。
世界で水不足が叫ばれている中、たった1kgの牛肉を作るためだけにこれだけの水を使用するのはどう考えてもおかしいと思います。
水問題については他の記事でまとめてあるのでそちらをご覧ください。
④食べ物を得る点において効率が悪い
肉は非常に効率が悪い食べ物です。
タンパク質100gの飼料を与えたら、ニワトリでは20g、ブタでは10g、牛ではたったの4gのタンパク質しかとることができません。
カロリーは100gあたりニワトリでは11g、ブタでは10g、牛ではたったの1gしか回収することができません。
世界の食べ物のカロリーの総量の3分の1以上、タンパク質は半分を畜産業で消費しています。
また、FAO(国際連合食糧農業機関)によれば、世界の食べ物の内40%を家畜が食べており、20年以内には60%にも及ぶ見込みだそうです。
仮に世界中の人が食べ物に困っていなければ、このように畜産業の多くの食べ物を使ってもいいでしょう。
しかし、世界には十分な食べ物を得ることができず、飢餓で苦しんでいる人たちが大勢います。
裕福な国の人たちが贅沢をするために肉を作り、そこに大量の食べ物を使用することで、貧しい国の人たちに食べ物が行き渡っていないのです。
⑤貧困層への影響
これは上で言ったこととほぼ同じですが、畜産業に多くの食べ物を使用することで食べ物にありつけていない人がたくさんいます。
畜産業を縮小させれば、今までそこに使用してきた食べ物を貧しい国の人たちに分け与えることができます。
価格面でも問題があります。
家畜に多くの穀物を上げるために需要が大きくなり、価格が上昇しているのです。
これにより、貧しい人たちが食べ物を買うのが困難になっています。
仮に、家畜にはあげずに全ての穀物を人間が食べれるとしたら、35億人もの人を養うことができると言われています。
家畜の頭数を減らすだけで多くの飢餓問題を解決できるのではないでしょうか。
⑥健康への影響
肉を多量に食べることは、心臓病・脳卒中・糖尿病などといった多くの病気の原因となります。
さらに深刻なのが薬剤耐性菌です。
家畜を育てるうえで抗生物質が大量に使用されています。
これはもう”乱用”と言っても差し支えないレベルです。
これにより、抗生物質に耐性を持つ細菌が増えてきました。
アメリカだけでも年に23,000人もの人が、食用の肉から薬剤耐性菌に感染し亡くなっているそうです。
日本でも農林水産省が耐性菌の全国的な発生調査をし、獣医師や酪農家に対して指導を行っています。
乳製品は??
「肉が環境に良くないことは分かった。それなら、乳製品は?」
基本的に卵、牛乳、ヨーグルトなど他の畜産物は鶏肉や豚肉と比べて環境への負荷が小さいと言われています。
ですが、植物性のものと比較すれば影響は明らかに大きいです。
上の図のように、牛乳の環境への影響は鶏肉などと比較しては小さいですが、他の「乳」と比較すると大きくなっています。
また、チェダーチーズやモッツァレラチーズはその製造過程で多くの牛乳を必要とするので鶏肉や豚肉よりも影響は大きくなります。
魚介類も環境に良くない?
動物性たんぱく質は肉や乳製品から、そして魚などの魚介類からも摂取することができます。
魚介類を食べることの環境への影響はどれほどなのでしょうか?
基本的に魚介類に関わる温室効果ガスの排出は、船の燃料の燃焼によるものだけでこれは肉と比べると小さい値となっています。
しかし、「マグロの漁獲規制」などを新聞やニュースでも頻繁に聞くように、私たちはすでにほぼ限界まで海の資源を取りつくしているので、仮に多くの人が食肉を止めて魚を食べ始めるようになってもその人たちに十分な量行き渡るだけの魚は獲ることができないそうです。
養殖はどうなのでしょうか?
船を使う必要もなく魚を簡単に手に入れることができるので、温室効果ガスの排出は少なそうです。
しかし、これも大きな問題を抱えています。
まず、アジアの国々では養殖場を作るために多くのマングローブを伐採しています。
この傾向が特に顕著なのがエビの養殖です。
例えばタイでは、ここ20~30年で半分以上のマングローブがエビの養殖場に変わってしまいました。
インドネシアやベトナムでも同じことが起こっています。
そして、そこで生産されたエビを最も消費しているのが日本だそうです。
問題はマングローブの減少だけではありません。
なんとメタンガスの発生も増えているのです。
中国では元々田んぼだったところをため池にして養殖場を作っているそうです。
田んぼには実はメタン生成菌がたくさんいて、メタン生成量の1割は田んぼから来ています。
ここに養殖用のため池を作ると、魚の糞や食べ残しがメタン生成菌の格好のエサとなり、より多くのメタンガスが産生されるようになります。
研究によると、メタンガスの発生は田んぼの時は8.15トンだったのが、ため池にしてからは28トンに上昇したそうです。
問題はまだあります。
養殖魚のエサには大量の天然魚を与えています。
サーモンなどの養殖魚を1トン生産するのに、小魚を3~5トンも消費するため、養殖魚の数が増えるほど天然魚が減少すると言われています。
畜産よりも環境への影響が小さいイメージを抱いていましたが、実際は魚の養殖もかなり環境への影響が大きいものであることが分かりました。
私たちに出来ること
畜産業が環境に与えている影響はとても大きいことがお分かりいただけたと思います。
私たちがこの問題に対してできることはあるのでしょうか?
多くの家畜が飼育されている理由はただ一つです。
私たちが食べているからです。
なので、肉の消費量が少なくなれば、自ずと家畜の頭数も少なくなります。
最も効果的なのがヴィーガンになることです。
これは肉はもちろんのこと、牛乳やチーズなどの動物由来の食品をすべてやめることです。
その次はベジタリアンになることです。
これは肉は食べないですが、卵や牛乳、チーズなどの畜産物は食べ続ける、というものです。
ただ、ほとんどの人にとってヴィーガンやベジタリアンになることはかなり難しいと思います。
誰しもがお肉を食べたいですもんね。
おそらく大勢の人が「絶対ヤダ!」と答えると思います。
ですが、「肉の量を減らしてみる」ではどうでしょうか?
例えば毎日夕食で必ず肉料理を食べている人であれば、週に2日は肉を使わずに豆腐や大豆を使って他の料理を作る、といったようにです。
自分でご飯を作る時は肉や動物由来食品を使わないようにして、外食に行くときだけは肉を食べる、という形も合っていいと思います。
また、上の図からも分かるように牛肉の代わりに豚肉と鶏肉を使うのも効果があります。
肉を食べるなと言っているのではありません。
ただ、少しだけ量を減らしてみてはいかがでしょうか。
他にも対策はあります
①獣医・畜産領域の発展
アメリカでは以前と比べて牛肉の生産量は増加しています。
しかし、牛の頭数は1975年当時と比較して3分の1程度減少しているそうです。
これは、繁殖技術や飼料の品質の向上といった畜産学と、獣医療の質の向上で家畜の死亡率などが減少し、飼養している頭数が少なくても以前より多くの肉がとれるようになったためです。
今後もこれらの分野をさらに発展させていくことが大切です。
②牛に海藻を食べさせる!?
オーストラリアの研究機関が、カギケノリと呼ばれる海藻が牛のメタン発生の99%抑制する効果を持つことを発見しました。
この海藻は牛の第一胃に生息する微生物を減らす物質を含んでいるそうです。
牛の健康や生産性を損なわずに、この海藻を利用できるように研究が進められています。
また、これが本格的に世界中で使用されるようになればこの海藻を安定的に育てる技術が必要とされてくるので、その研究も行われているそうです。
“代替肉”という新しい選択肢
「地球温暖化がこれ以上進むのは良くないと分かっているけど、肉はやめられない…」
そんな人たちに朗報です。
最近は様々な研究や商品開発が進み、「代替肉」というものが出てきました。
これには、植物からできているものや、動物細胞自体を培養して研究室内で作れる肉などがあります。
有名な企業が3つあるので紹介したいと思います。
①Beyond Meat
“Beyond Meat”は植物由来肉を作っている会社です。
この会社は
①人間の健康の増進
②地球温暖化の解決
③天然資源減少への取り組み
④動物福祉の向上
の4つをミッションとしています。
この会社の植物由来肉を使って作られた”Beyond Burger”と普通のハンバーガーを比較して、なんと99%の水、93%の土地、90%の温室効果ガス、46%の電気を節約できるそうです。
この会社は中国の「Yum China」という会社と今年から連携をはじめました。
Yum ChinaはKFC、Pizza Hut、タコベルなどのファストフード店を中国内で経営している会社です。
そしてそれらのファストフード店で、Beyond Meatの肉を使ったメニューのテストが始まったそうです。
②Impossible Foods
この会社は「何が肉を美味しくさせているのか?」という謎を解明するために、長年研究を重ねてきました。
その結果、「ヘム鉄」が肉を肉の味にしているということを発見しました。
そして、2015年にヘム鉄の培養法で特許を取得します。
これによって、より本物の肉の味に近い植物由来肉を作れるようになりました。
Burger Kingと提携して”Impossible Whopper”と”Impossible Croissan’wich”というハンバーガーを開発して売っています。
また、KFCと昨年”Beyond Fried Chicken”をテストし、今年に入ってからもさらに範囲を拡大してテストを続けています。
どちらのテストでも売れ行きがかなり良く、今後KFCが本格的に植物由来肉を使用していく可能性が高いとのことです。
③JUST, Inc
上の2つの会社は、植物を使って代替肉を作っている会社でした。
しかし、この会社は2011年にアメリカで出来た「培養肉」の会社です。
肉の細胞を研究室内で培養してできたものが培養肉です。
植物由来肉は限りなく肉に似せましたが、原材料は植物でした。
しかし、培養肉は本物の肉なのです。
JUST,Incは、牛肉、豚肉、鶏肉をすでに培養することに成功しています。
しかも細胞の培養は植物由来の物質のみで行えるそうです。
商品化するにはまだ至っていないそうですが、スーパーで培養肉が見られる日も遠くないかもしれません。
最後に
食肉はやめるべきなのか??
これには様々な立場から多くの意見があると思います。
僕個人では「やめる必要は無いが、方法を改める必要がある」と思っています。
家畜は本来、農作物を育てることができないところで飼い始められ、エサは人が食糧として利用できないものを与えていました。
つまり、とても理にかなった食料の獲得方法だったのです。
しかし、人間が増えるにつれてさらに多くの肉を必要とするようになり、森林を伐採していき農地を拡大させ、効率よく成長させるために人が食べることのできるものをエサとして与えるようになりました。
今回の記事では環境問題に焦点を当てて説明してきましたが、アニマルウェルフェア(動物愛護)の観点からも多くの問題があります。
問題は僕たちが食べ過ぎていることです。
節度を保って肉を食べていれば、人間が食べることのできる穀物を牛にエサとしてあげる必要は無く、新たに農地を開発する必要もありません。
とは言っても、そもそも人口自体が増えてきているので、肉の消費量の増加は避けられません。
すでに述べたように、アメリカやオーストラリアなど一部の国々の人が過剰に肉を消費しています。
それらの国の人々が肉の消費を抑えることはもちろん大切ですが、地球に住む1人1人が意識して肉の消費量を減らしていくことが重要であると思います。
僕は畜産系の大学に通っていて、周りには牛について勉強していたり将来酪農家や牛の獣医師になりたいと思っている人たちがたくさんいます。
そういう友達の話を聞いたり、講義で先生の話を聞いたりして酪農に携わっている人たちが大変な努力や手間をかけて牛を育てていることをよく知っています。
なので今回の記事を書くのは少し辛かったのですが、普段何気なく食べている肉によって多くの問題が起こっていることを知って欲しいという思いから書きあげました。
この記事によって皆さんの食肉に対する考え方が少しでも変わったら幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
参考
https://ourworldindata.org/environmental-impacts-of-food
https://www.nytimes.com/interactive/2019/04/30/dining/climate-change-food-eating-habits.html
http://english.cas.cn/newsroom/news/201903/t20190315_206875.shtml
https://www.goodnewsnetwork.org/gamechanging-pink-seaweed-reduces-cow-emissions/
https://gigazine.net/news/20190819-seaweed-reduces-cow-methane-emissions/
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/r0511in1.pdf
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO82827310V00C15A2000000/
https://www.nies.go.jp/kanko/news/26/26-4/26-4-04.html
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/114/mgzn11412.html
https://thebeet.com/the-meat-industry-will-be-obsolete-in-15-years-says-impossible-foods-ceo/
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