獣医学生が説明します!!トキ保護の現状

皆さんは朱鷺(トキ)という鳥をご存知でしょうか?
新潟県民の僕は幼いころからテレビでよく流れていたので知っているのは当然なのですが、大学に入ってから他の県の人達も普通に知っていてビックリしました~

僕は将来は獣医師としてトキの保護に携わりたいと考えています。
2018年の9月には佐渡朱鷺保護センターに実習に参加させていただきました。
そんな僕が今回はトキの保護の現状と課題について説明していきたいと思います。

トキの基本情報

分類 ペリカン目トキ科
学名 Nipponia nippon
レッドリスト 絶滅危惧ⅠA(2019年1月に変更)

特別天然記念物
新潟県の県鳥

現在は新潟県、佐渡島におよそ350羽生息しています。

食べ物

トキは田んぼや森がある”里山”に生息します。
水田ではドジョウを、あぜや草地ではミミズを食べます。
他にもカエル、サワガニ、バッタなども食べます。

トキの1年

群れの形成(9~12月)
繁殖期が終わると群れを形成します。
5羽から多い時には20羽の群れを作ります。

ペア形成(1~3月)
2月頃から気に入った相手とペアを形成しはじめ、3月になると巣を作り卵を産みます。

産卵・抱卵(4月)
オスとメスが交互に卵を温め、およそ28日で孵化します。

ふ化・育雛(5~6月)

巣立ち(7~8月)
ふ化後およそ40日で巣立ちを迎えます。

トキだけ!特殊な羽色の変化

トキは繁殖期が近づくと、首のあたりの剥がれ落ちた皮膚を体にこすりつけて羽の色を白から黒に変えます。
これを生殖羽といいトキが繁殖可能な状態であることを示しています。

トキの歴史

トキは江戸時代までは”普通種”として全国に分布していました。

しかし、明治時代から戦後までの間に狩猟による乱獲や農薬によって数が激減します。
乱獲は主にトキのきれいな羽が目的でしたが、肉も食べられており佐渡の町の肉屋さんでは鶏と同じようにトキも売られていたそうです。
また、農薬の使用で田んぼに生息するトキのエサが減少しトキの個体数も減少してしまいました。
全国どこにでも普通にいたトキの数は激減し、野生化では佐渡島と石川県の能登半島だけでしか確認されなくなりました。
このようにトキの絶滅の原因は人間にあったと言えます…

この状況を見て1967年に「新潟県佐渡朱鷺保護センター」が開設されました。
しかしトキの減少は止まらず、1981年には佐渡島で5羽しか確認されなくなってしまいました。
自然下で個体数が増える可能性が低いと考え同年に「全鳥捕獲」が行われます。これにより日本の野生のトキは完全にいなくなってしまいました。
人が介入することで繁殖させようと試みましたが、成功することなく次から次へと捕獲した個体が死んでいきます。

その後は中国からペアを借りて人工繁殖させていくことになりました。
佐渡朱鷺保護センターの職員さんの涙ぐましい努力により個体数は増えていき、2008年に放鳥に踏み切ります。

2003年に「キン」が死ぬことで完全に国産のトキはいなくなりました…

2018年は放鳥10周年となる記念の年でした

ここで…日本と中国のトキは同じなの?

現在日本にいるトキはすべて中国から連れてきた個体の子孫です。
なので中国産のトキを増やしたところで日本のトキが復活したことにはならない、とレッドリストのランク下げを批判的にとらえる意見もあります。
しかし研究によると日本産と中国産の遺伝子の違いはわずか0.065%とされており、これは皆さんが友達と少しだけ違うように”個体差”程度です。つまり全く同じ種類であると考えられます。

科学的に証明されたとしても少し違和感が残るのは当然のことだと思います。
ですがすでに死んでしまった”純”日本産のトキの約10羽の細胞は冷凍保存されているため、将来的にクローン技術などが発達していけば”純”日本産のトキを復活させられるかもしれませんね!
詳しくは下記のサイトをご覧になってください。

『日本と中国のトキは違う?』 新潟日報モア
https://www.niigata-nippo.co.jp/news/toki/description/04.html

トキ保護の現状

トキの保護は現在、佐渡市・新潟県・環境省の三者が協力して行っています。
役割分担を簡単に図にしてみると上の様になります。

飼育・訓練・放鳥
新潟県の施設である「佐渡朱鷺保護センター」と「野生復帰ステーション」で行われています。

「佐渡朱鷺保護センター」
観光地であるトキの森公園の一部にある施設です。
人工繁殖がここで活発に行われていました。現在は繁殖に適さなかった高齢の個体が飼育されており、トキ資料展示館の通路から観察することができます。

「野生復帰ステーション」
現在の朱鷺の保護活動はほとんどここで行われています。
繁殖ケージにはペアをいれて巣作り・産卵・抱卵・ふ化・育雛という一連の繁殖行動を行わせます。
順化ケージは幅50m、奥行き80m、高さ15m(←すごく大きかったです!!)で中には田んぼや池などがあります。
その中には放鳥予定の個体が収容され、飛翔能力・採餌能力・社会性を身につけます。エサはドジョウを池に放すことで与えます。これによって放鳥後に田んぼでもエサを捕れるようにします。

生息環境整備
新潟県と佐渡市が行っています。
トキのエサ場となるビオトープの整備や、営巣木の保全を行います。
また、トキが生息する里山の環境に配慮して生産されたお米は「朱鷺と暮らす郷」という名前のブランド米とし、環境の保全を視野に入れた農業を推進しています。

これらの活動により、トキを中心とした豊かな生態系を守る里山づくりが認められ2011年にはGIAHS(世界農業遺産)に佐渡が登録されました。

社会環境整備
新潟県と佐渡市が行っています。
環境教育や地域住民との話し合いの場を設けることで地元の方々の理解を得ます。
トキとの共生ルールなども定め、人とトキが共存できる社会づくりを目指しています。

モニタリング・調査
環境省、新潟大学、地元のボランティアさんでチームを作り、毎日モニタリングを行っています。
足環の色などから個体を識別し日時、場所、行動を記録します。
それらのデータをまとめて、推定個体数を求めたり、佐渡島内のトキの分布の状況を確認しています。

実習中にモニタリングに参加させていただきましたが、足環を見て個体識別表から該当する個体を探し出すのがとても大変でした…
個体識別表は以下のリンクから確認してみてください!

『トキ個体識別表』 放鳥トキ情報 環境省佐渡自然保護官事務所
https://blog.goo.ne.jp/tokimaster/e/db2efde994391042b29fc95c78a3ed8d

保護の成果

2008年の第1回放鳥では9羽のトキが放鳥されました。つまりこの時野生のトキは9羽しかいませんでした。しかしその後も放鳥を続け、現在はおよそ350羽のトキが生息しています。
放鳥を始めた当初は”放鳥数=野生の個体数”でしたが、2012年に野生下でトキの繁殖が観察され、それ以来はトキが自分たちの力でも個体数を増やしていくようになります。
一度は野生からいなくなったトキですがこのようにして野生復帰を果たしました。

トキ保護の課題

トキの保護は順調に進んでいるように見えますがもちろん課題もあります。

最も大きな課題が遺伝的多様性の確保です。
現在野生にいるおよそ350羽のトキはたった5羽のトキの遺伝子を組み合わせたものです。

遺伝情報が似ていると何が問題なのでしょうか?
例えば鳥インフルエンザなどの感染症が流行した際に、全ての個体が同じような抵抗力しか有していないので全滅する恐れがあります。
2018年に「楼楼」、「関関」が新たに繁殖に加わりましたがまだまだ心配です。
これからも中国からペアを借りていく必要があると思います。

感染症などが発生した際に備えて佐渡島以外の場所でトキを飼育する「分散飼育」が行われています。
現在、多摩動物公園、いしかわ動物園、出雲市トキ分散飼育センター、長岡市トキ分散飼育センターで飼育されています。

現在野生にいるトキはほとんどすべてが佐渡島に生息しています。
順調に増えていっているトキですが、佐渡島に住むことのできるトキの個体数にも限りがあるので今後は島外にも生息地を確保していく必要があると思います。
トキはもともとはどこにでもいた鳥なので佐渡だけでなく日本のいたるところで見られるようになれればいいですね!
(もちろん佐渡以外でトキが住むとなれば生息環境の整備、地元住民の理解を得るなど課題はたくさんありますが…)

最後に

保護が順調に進み、絶滅危惧のランクが下がりましたがまだ”ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの”とされているため、今後も見守っていく必要があると思います。

またトキは田んぼがあり、川があり、山があるという昔から日本人が住んでいた”里山”の環境に生息します。
一度ビルが建ったところをこのような環境に戻すのは難しいと思いますが、トキの保護を通じてこのような環境を守っていくことも重要であると思います。里山を守ることで日本の自然を守ることにもつながりますよね!

ありがとうございました~

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